“自分らしさ”って何?わからないまま拗らせた人に読んでほしい話

自分らしさって何だろう 感情・心のしくみ

「あなたは、どうしたい?」

そう聞かれた途端、何も思い浮かばなくなることがあります。

行きたい場所を聞かれても、

「どこでもいいよ」

食べたいものを聞かれても、

「何でもいい」

仕事について聞かれれば、

「今より条件がよければ」

これからの人生について考えようとしても、

「特にやりたいことはないかな」

と答える。

けれど、本当に何でもよいわけではありません。

相手が決めた場所へ行ったあとで、

「本当は、あまり気が進まなかった」

と気づく。

仕事を引き受けたあとで、

「どうしてまた私なの?」

と腹が立つ。

家族の希望を優先し続けたあとで、

「誰も私の気持ちを考えてくれない」

と寂しくなる。

自分の気持ちがないわけではありません。

ただ、選ぶ場面になると、自分の希望より先に、

相手は何を望んでいるのか。

どの選択が迷惑をかけないか。

何を選べば失敗しないか。

周囲からどう見られるか。

そんなことを考えてしまうのです。

自分らしさを探すほど、正解が増えていく

「自分らしく生きよう」

「好きなことを仕事にしよう」

「本当の自分を見つけよう」

そんな言葉を聞いて、

「そうできたらいいな」

と思ったことはあるでしょう。

そこで、自己理解の本を読む。

性格診断を試す。

好きなことを書き出す。

SNSで、自分らしく働いている人を見る。

けれど、調べるほどわからなくなります。

性格診断では、

「慎重で計画的なタイプ」

と出た。

別の診断では、

「自由を求める感覚派」

と出る。

仕事では段取りを考えて動くのに、休日は何も決めたくない。

人と話すのは得意なのに、誰にも会いたくない日もある。

一人で過ごすのは好きだけれど、ずっと一人では寂しい。

どれが本当の自分なのか。

そんなことを考えているうちに、自己理解のはずが、また正解探しになっていきます。

「自分らしくするなら、迷ってはいけない」

「本当に好きなことなら、ずっと続けられるはず」

「これが私です、と言えるものが必要」

自分らしさを見つけるはずが、「自分らしい人になる」という新しい課題が増えてしまうのです。

やりたいことより、できることを選んできた

自分らしさがわからない人の中には、これまで多くのことを自分で判断し、行動してきた人もいます。

仕事では、何をすべきかわかる。

問題が起きれば、必要な対応を考えられる。

家族が困っていれば、どうすればよいか思いつく。

周囲からは、判断力がある人に見えています。

ところが、

「あなたは何がしたいの?」

と聞かれると答えられません。

できることと、やりたいことは同じとは限らないからです。

これまで選んできたのは、

採用されそうな仕事。

生活を安定させられる仕事。

家族が納得する道。

人から頼まれた役割。

自分がやれば、問題なく進むこと。

本人には、

「必要だったからやった」

「ほかに選択肢がなかった」

「自分がやるのがいちばん早かった」

という感覚があります。

そのため、自分を犠牲にしてきたつもりもないかもしれません。

ただ、できることや必要なことを選ぶ時間が長くなると、

「私は何をしたいのか」

を考える機会が減っていきます。

そして、いざ自由に選べる場面が来ると、何を基準にすればよいのかわからなくなります。

人に合わせることが、自分を守る方法だった

自分の希望より、周囲に合わせるようになった背景には、過去の経験が影響している場合があります。

子どもの頃、

「今日は、これが食べたい」

と言ったら、

「わがままを言わないの」

と返された。

やってみたいことを話したら、

「そんなことをして何になるの?」

と否定された。

好きな服を選んだら、家族から笑われた。

意見を言ったら、親の機嫌が悪くなった。

失敗したとき、

「だから言ったでしょう」

と強く責められた。

家族が大変そうだったため、自分の希望を言える状況ではなかった人もいるでしょう。

そのような経験が続くと、

自分の希望を言うと、誰かを困らせる。

好きなものを見せると、笑われる。

自分で選んで失敗したら、責められる。

周囲に合わせていれば、問題が起きない。

という感覚が残ることがあります。

本人は、過去を思い出しながら選んでいるわけではありません。

現在は、

「こだわりがないから」

「みんなが楽しければ、それでいいから」

「私は何でも楽しめる方だから」

と考えているかもしれません。

けれど、自分の希望を言おうとした瞬間に不安や罪悪感が出るなら、以前の経験とつながっている可能性があります。

自分の希望を持つと、誰を困らせる気がしますか

「好きな方を選べばいい」

頭では、そうわかっています。

それでも選べないときには、選んだあとに何が起きると思っているのかを見る必要があります。

自分が行きたい場所を選んだら、相手が退屈するかもしれない。

仕事を断ったら、困る人がいる。

転職したら、今の職場へ迷惑をかける。

家族より自分を優先したら、冷たい人だと思われる。

やりたいことを始めて続かなかったら、恥ずかしい。

自分で選んで失敗したら、言い訳できない。

希望を持った瞬間、その後に起きそうな問題まで考えてしまいます。

そのため、希望そのものを持たない方が楽になります。

「何でもいい」

と言っておけば、自分の選択で誰かを困らせることもありません。

人の案に従えば、うまくいかなかったときに、自分の判断を責めずに済みます。

自分の希望がわからないように見えて、本当は、希望を持ったあとの責任や人間関係を怖がっている場合があります。

「何でもいい」のあとで、不満が残る理由

周囲へ合わせることは、人間関係の中で必要なことでもあります。

毎回、自分の希望だけを通すことはできません。

問題は、自分が何を感じているのかもわからないまま、相手へ合わせ続けることです。

友人から、

「どちらのお店がいい?」

と聞かれ、

「どちらでもいいよ」

と答えた。

友人が決めた店に入ったあとで、料理や値段が気に入らず、不満が出る。

けれど、自分は希望を言っていないため、

「本当は別の店がよかった」

とも言いにくい。

仕事でも同じことが起こります。

頼まれたときは、

「わかりました」

と引き受ける。

帰宅してから、どうして自分ばかり頼まれるのかと腹が立つ。

相手から見ると、本人が困っていることがわかりません。

断らずに引き受けてくれた人に見えるからです。

こうして、

希望を言わずに合わせる。

あとから不満が出る。

相手には伝わらない。

「誰も私を理解してくれない」と感じる。

また希望を言わなくなる。

という流れが続くことがあります。

役割がなくなると、自分までなくなったように感じる

長い間、

仕事ができる人。

頼られる人。

家族を支える人。

困ったときに動く人。

という役割で生きてきた人は、その役割が減ったときに戸惑うことがあります。

子どもが独立した。

親の介護が終わった。

役職を離れた。

退職した。

人から頼まれる機会が減った。

時間ができたのに、何をすればよいかわからない。

楽しめるはずの休日を持て余す。

予定がないと、自分には価値がないように感じる。

「これからは自分のために時間を使おう」

と言われても、何をすれば自分のためになるのかわからない。

これまで役割を果たすことで、自分の存在を確認してきたからです。

役に立つ自分。

求められる自分。

問題を解決する自分。

それは確かに自分の一部です。

けれど、その役割だけが自分のすべてになると、役割が変わったときに、自分まで失ったように感じます。

好き嫌いがないのではなく、選ぶことが怖い場合がある

「私には、特に好きなことがない」

そう話す人もいます。

けれど、よく見ていくと、反応はあります。

誘われたとき、行きたくないと感じた。

ある人の言い方に腹が立った。

休日に何も話さず過ごせて、ほっとした。

店で見た服を、何度も思い出した。

人から褒められた言葉が、意外にうれしかった。

自由に生きている人を見て、うらやましく感じた。

そこには、好き、嫌い、うれしい、悔しいという反応があります。

ただ、その反応に気づいたあと、

「こんなことで腹を立てるのはよくない」

「この年齢で、この服は似合わない」

「欲しいけれど、役には立たない」

「うらやましいと思うなんて恥ずかしい」

と、すぐに判断を加えています。

感じていないのではありません。

感じたことを、選択の基準として認めていないのです。

本当の自分を一人に決めなくてよい

自分らしさを考えるとき、

「どれが本当の私なのか」

と悩むことがあります。

仕事では、人前で話せる。

初対面の人とも会話できる。

家では、誰とも話したくない。

これは矛盾ではありません。

仕事では決断が早い。

休日の予定は決められない。

それも、どちらかが偽物ということではありません。

一人で過ごすのが好き。

誰かと深くつながりたい。

その両方があってもよいのです。

人は、置かれている状況や相手との関係によって、違う面を見せます。

年齢や経験によって、好みが変わることもあります。

以前は好きだったことに興味がなくなる。

苦手だったことを、今は楽しめる。

自分らしさを、一度決めたら変えてはいけないプロフィールのように考えると、また苦しくなります。

大切なのは、どこでも同じ自分でいることより、その時々の自分が何を感じ、何を考えて選んでいるのかを、自分でわかっていることです。

状況に合わせる自分も、自分の一部

自分らしく生きることは、周囲へ合わせないことではありません。

仕事では、苦手な人とも協力する必要があります。

家族の状況によって、自分の予定を変更することもあります。

収入や健康の問題があり、今すぐ望む選択ができない場合もあります。

本当は休みたい。

けれど、今日は仕事へ行く。

家族の用事を引き受けたくない。

けれど、今回は自分が担当する。

そのような選択もあります。

ここで大切なのは、

「本当は休みたい」

「負担だと感じている」

という自分の気持ちまで消さないことです。

自分の気持ちを理解したうえで、現実を考えて選ぶ。

その選択と、自分の気持ちが存在しないことにして従うのとでは、同じ行動でも受け止め方が違います。

自分らしさは、いつも好きなことだけを選ぶ生き方ではありません。

現実へ対応しながらも、自分が何を感じているのかを置き去りにしないことです。

気持ちを知ることと、すべて実行することは違う

自分の本音に気づいたら、すぐに行動しなければならないと思う人もいます。

仕事を辞めたいと感じたら、退職しなければならない。

一人になりたいと感じたら、関係を終わらせなければならない。

腹が立ったら、相手へ全部伝えなければならない。

そう考えると、自分の気持ちを知ること自体が怖くなります。

けれど、感情は命令ではありません。

「仕事を辞めたい」

という気持ちの中には、

休みたい。

評価されたい。

負担を減らしたい。

上司との関係を変えたい。

別の仕事にも挑戦してみたい。

という、いくつもの思いが含まれている場合があります。

気持ちを知ったあとで、現実的な方法を考えることができます。

今すぐ辞めるのか。

仕事量を相談するのか。

異動を希望するのか。

休暇を取るのか。

転職について情報を集めるのか。

選択肢は一つではありません。

気持ちを知ることは、衝動のまま行動することではありません。

自分が何を必要としているのかを知り、現実に合う方法を考えるための入り口です。

役割、義務、希望を分けて考える

「自分が何をしたいのかわからない」ときには、考えていることが一つに混ざっている場合があります。

できること。

やるべきこと。

人から求められていること。

生活のために必要なこと。

自分が本当に望んでいること。

これらを、すべて同じものとして扱っているのです。

仕事ができるからといって、その仕事を続けたいとは限りません。

家事が得意だからといって、家族全員の世話をしたいとは限りません。

人の話を聞けるからといって、いつも相談役になりたいとは限りません。

反対に、やりたいことがすぐ仕事になるとも限りません。

役に立たなくても、好きなことはあります。

上達しなくても、続けたいことがあります。

一度試して、違うと思うこともあります。

自分らしさを考えるときは、

「何が得意なのか」

だけで終わらず、

「それを続けたいのか」

「どのくらいなら引き受けたいのか」

「本当は何を減らしたいのか」

まで見ていく必要があります。

自分らしさは、選び直せることに表れる

過去には、周囲へ合わせることが必要だったのかもしれません。

自分の希望を言うより、家族の事情を優先した方がよかった。

失敗しない道を選ぶことで、生活を守ってきた。

役に立つことで、人との関係を保ってきた。

その選び方には、当時の自分を守る意味があったのでしょう。

ただ、その選び方を現在も続ける必要があるかどうかは、改めて考えることができます。

自分の希望を考えようとすると何も出てこない。

好きなものを選ぼうとすると、罪悪感が出る。

人に合わせたあとで、強い不満が残る。

役割がなくなると、自分に価値がないように感じる。

そのようなことが続いているときは、「好きなことを見つけよう」と考えるだけでは、同じところを回る場合があります。

カウンセリングでは、これまで何を基準に選んできたのかを確認します。

自分の希望を言ったとき、誰の機嫌が悪くなったのか。

何を選んだときに責められたのか。

どのような役割を果たせば、認めてもらえたのか。

役割をやめたら、何を失うように感じるのか。

当時感じられなかった悲しさや怒り、怖さ、罪悪感が残っていないかも見ていきます。

過去の出来事を振り返るだけで、自分らしさの答えが出るわけではありません。

ただ、自分の希望を抑える必要があった理由を理解し、そのとき残った感情を扱うことで、現在の選択まで過去の基準で決めなくてよいと感じやすくなることがあります。

本当の自分を、一つの言葉で完成させる必要はありません。

今日は人と話したい。

明日は一人でいたい。

今の仕事は続けたい。

でも、今の働き方は変えたい。

家族は大切。

それでも、自分の時間も必要。

その時々の気持ちを知り、現実を考えながら選び直していく。

その積み重ねに、その人らしさは表れていくのだと思います。

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