「女性性を大切にしましょう」
そんな言葉を聞いて、
「……それは、具体的に何をすればいいの?」
と思ったことはありませんか?
受け取る力。
感じる力。
甘えること。
やわらかさ。
そう説明されても、これまで「しっかりしている」「頼りになる」「気が利く」と言われながら生きてきた人にとっては、今までとは違う人物になれと言われているように感じるかもしれません。
仕事では判断する側。
家庭では支える側。
何か問題が起きれば、まず自分が動く。
そんな毎日を送ってきたのに、急に「もっとゆるんで」「受け取って」と言われても、簡単には切り替えられません。
むしろ、
「私、いつからこんなに戦闘モードで生きているのだろう」
と、自分でもわからなくなることがあります。
強くなりたかったわけではない。
誰にも頼らず生きたかったわけでもない。
それでも気がつけば、何かに備え、周囲を気にかけ、すぐに動けるように身構えている。
今回は、女性性とは何なのか、そして、なぜ戦闘モードから抜けにくくなるのかについて考えていきます。
女性性は、女性らしく振る舞うことではない
女性性と聞くと、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。
やさしさ。
包容力。
色気。
かわいげ。
ふんわりした服装や、穏やかな話し方を思い浮かべる人もいるかもしれません。
けれども、心理学で語られる女性性は、外見や振る舞いだけを指す言葉ではありません。
感じること。
受け取ること。
人とつながること。
共感すること。
何かを育むこと。
そうした内側へ向かう力を、女性性として説明することがあります。
一方、行動する、決断する、結果を出す、守る、道を切り開くといった外へ向かう力は、男性性として語られます。
女性性も男性性も、性別にかかわらず誰の中にもあります。
何かを決めて行動するときには、男性性の力を使っています。
誰かの気持ちを受け止めたり、目の前の出来事を味わったりするときには、女性性の力を使っています。
どちらか一方だけが必要なのではありません。
行動する力と感じる力。
差し出す力と受け取る力。
自分で進む力と、人とつながる力。
その両方を使いながら、私たちは暮らしています。
ところが、長いあいだ行動する側、守る側、支える側で生きていると、女性性を使う機会が減っていくことがあります。
女性性がないのではありません。
使わなくても生きていけるように、自分の中で後回しにしてきたのです。
強くなりたかったのではなく、動く必要があった
いつも戦闘モードになっている人は、好きで気を張っているわけではありません。
そうする必要があった時期があることが多いのです。
弱音を吐いたときに、
「それくらい我慢しなさい」
と言われた。
困っていても、大人が気づいてくれなかった。
家の中が不安定で、自分まで心配をかけられないと思った。
誰かが傷つかないように、周囲の様子を見て行動していた。
「女の子なのだから」と言われることはあっても、守ってもらった感覚は持てなかった。
そのような経験が重なると、自分の気持ちを感じることより、何をすれば状況が落ち着くかを考えるようになります。
悲しいと思う前に、やるべきことを探す。
腹が立つ前に、自分が我慢すれば済むと考える。
不安を感じる前に、先回りして準備する。
誰かに頼る前に、自分で片づける。
そうやって乗り越えてきた人にとって、戦闘モードは欠点ではありません。
自分を守り、生活を成り立たせるために身につけた力です。
その力があったから、ここまでやってこられたことも多いでしょう。
ただ、必要だった時期が終わっても、心や体はすぐには切り替わりません。
今は急がなくていい場面でも、何かしなければ落ち着かない。
任せてもよい相手がいても、自分でやった方が早いと思う。
休む時間ができると、かえって不安になる。
戦う必要のない場所でも、身構えたままになってしまうのです。
戦闘モードでは、「感じる前に動く」
戦闘モードが長く続くと、自分の感情に気づくより先に体が動くようになります。
疲れている。
本当は嫌だ。
寂しい。
助けてほしい。
今日は何もしたくない。
そうした気持ちが出てきても、
「でも、私がやらなければ」
「今はそんなことを言っている場合ではない」
「ほかの人の方が大変だから」
と、すぐに押し戻してしまいます。
感じることより、役に立つこと。
受け取ることより、差し出すこと。
待つことより、先に動くこと。
それを繰り返していると、自分が何を感じているのか、何を欲しいと思っているのかが見えにくくなります。
誰かに「どうしたい?」と聞かれても、すぐには答えられない。
「何でもいいよ」
「みんなに合わせるよ」
「私は平気だから」
という言葉が先に出てくる。
けれども、本当に何も感じていないわけではありません。
感じたことを確認する前に、処理する癖がついているのです。
ゆるむと不安になるのはなぜか
戦闘モードから抜けたいと思っていても、実際にゆるもうとすると、落ち着かなくなることがあります。
何もしないで座っていると、時間を無駄にしている気がする。
人に任せると、失敗しないか気になる。
誰かに親切にされると、申し訳なくなる。
予定が入っていないと、自分だけ取り残されたように感じる。
これは、忙しさに慣れているからだけではありません。
行動することや役に立つことが、自分の居場所になっている場合があります。
頑張っていれば、必要としてもらえる。
しっかりしていれば、迷惑をかけずに済む。
役に立っていれば、ここにいてもよい。
そんな感覚があると、ゆるむことは、単に休むことではなくなります。
役割を手放すこと。
必要とされる自分を手放すこと。
価値のある自分でいられなくなること。
そのように感じられてしまうのです。
だから、「もっとゆるんだ方がいい」と言われても、心は簡単に納得しません。
ゆるんだ先で、自分に何が残るのかわからないからです。
「しっかり者」が、自分そのものになっている
長いあいだ頼られる側でいると、「しっかりしている自分」が性格というより、役割になります。
周囲も、その人なら任せられると思っています。
本人も、期待に応えることに慣れています。
そのため、疲れた顔を見せたり、迷っていることを話したりすると、
「私らしくない」
と感じることがあります。
本当は助けてほしくても、
「急にそんなことを言ったら、周りが困るのではないか」
と思う。
本当は誰かに任せたいのに、
「できない人になったようで嫌だ」
と感じる。
本当は寂しくても、
「今さら甘えるような人物ではない」
と、自分に言い聞かせる。
女性性を使いにくくなっているとき、受け取ることだけに抵抗があるわけではありません。
これまで作ってきた自分のイメージが崩れることにも、怖さがあるのです。
女性性を取り戻すために、別の人物になる必要はない
女性性を大切にするというと、今までの強さを捨てなければならないように感じるかもしれません。
頑張らない人になる。
判断できない人になる。
誰かに守ってもらう人になる。
そう考えると、抵抗が出るのも当然です。
けれども、女性性を使うことと、これまで培ってきた力を失うことは同じではありません。
自分で決める力を持ちながら、人の意見を受け取る。
仕事を進める力を持ちながら、疲れていることにも気づく。
誰かを支えながら、自分の気持ちも話す。
一人でできることでも、相手が差し出してくれた好意を受け取ってみる。
どちらかを選ぶのではなく、使える力を増やしていくのです。
戦闘モードで生きてきた人は、行動する力を十分に持っています。
そこに、感じる力、受け取る力、つながる力を加えていく。
それは、弱くなることではなく、これまで使ってこなかった自分の力も使えるようになることです。
まずは、自分の中で起きていることに気づく
「今日から女性性を使おう」と決めても、急に切り替わるものではありません。
まずできるのは、すぐに行動へ移る前に、自分の中で何が起きているかを確かめることです。
誰かに頼まれたとき、
「できるかどうか」だけでなく、「私は引き受けたいのか」と考えてみる。
休みの日に予定を入れたくなったとき、
「本当に出かけたいのか」「何もしない時間が不安なのか」と見てみる。
親切にされたとき、
「申し訳ない」が出てきたとしても、その奥に「うれしい」がないかを確かめてみる。
すぐに答えが出なくてもかまいません。
自分の気持ちを確認する時間を持つこと自体が、感じる力を使うことにつながります。
女性性は、どこかから新しく手に入れるものではありません。
これまで行動することを優先する中で、後ろに置いてきた力です。
戦闘モードだった自分を責めなくていい
「どうして私は、もっと頼れなかったのだろう」
「なぜ、いつも一人で頑張ってしまうのだろう」
そう思うこともあるかもしれません。
けれども、戦闘モードには、それが必要になった理由があります。
誰かを守りたかった。
迷惑をかけたくなかった。
自分が崩れたら、すべてが回らなくなると思っていた。
認めてもらうには、結果を出さなければならないと感じていた。
そのときの自分は、できる方法を使って生きてきたのです。
これから必要なのは、戦闘モードを無理に脱ぐことではありません。
今も本当に戦う必要があるのか。
誰かに任せてもよい場面なのか。
自分の気持ちを後回しにしなくても、関係は壊れないのか。
一つひとつ確かめながら、使う力を選べるようになることです。
強くあり続けるしかなかった自分の奥には、感じることを待っている自分もいます。
受け取りたい気持ち。
誰かとつながりたい気持ち。
何かを育てたい気持ち。
安心して力を抜きたい気持ち。
そうした女性性の力は、今も自分の中に残っています。
カウンセリングでは、なぜ行動することを止められないのか、ゆるむとどのような不安が出てくるのかを見ながら、戦闘モードが必要になった背景を整理していきます。
これまでの強さを否定せず、感じることや受け取ることも選べる状態へ戻していく。そこから、人との関わり方や自分の時間の使い方が変わっていくことがあります。




