付き合い始めた頃は、とても穏やかな人だと思っていた。
「今度ここへ行かない?」と誘えば「いいね」と言う。食事のお店も「どこでもいいよ」。こちらが何か提案しても、特に反対する様子はない。
だから、二人はうまくいっていると思っていた。
ところがある日、彼から突然、
「前から、あの言い方が嫌だった」
「あの店、本当は行きたくなかった」
「いつも自分ばかり合わせている気がする」
と言われる。
こちらとしては、
「え? そんなに嫌だったなら、そのとき言ってくれたらよかったのに」
となります。
言ってくれれば直せた。相談もできた。なぜ何も言わずに溜めて、突然まとめて出してくるのか。
でも、不満をその場で言える人と、言えない人では、そもそも「嫌なことがあったときの対処」がかなり違うことがあります。
- 不満を言わないことが、本人にとっては関係を守る方法だった
- 「言わない」と決めても、不満まで消えるわけではない
- ある日突然爆発するのは、今日の出来事だけに怒っているわけではない
- 爆発したあとに、今度は距離を取る人もいる
- では「嫌ならそのとき言えばいい」は間違っているのか
- 「何でも言って」と言いながら、言われた瞬間に反論していないか
- 自分ができることは、相手にもできると思いやすい
- 「どちらが正しいか」になると、違いが見えなくなる
- 不満を言いやすい関係を作るには、タイミングも方法も一つにしない
- それでも、全部をこちらが配慮する必要はない
- 「違いを理解できる」と「この人と付き合い続けたい」は別
- 自分の側にも、いつものパターンが出ていないか
- まとめ
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不満を言わないことが、本人にとっては関係を守る方法だった
嫌なことがあったら、その場で言う。
「それは嫌だった」
「今日は行きたくない」
「私はこうしたい」
こう言える人にとっては、不満を溜める方が理解しにくいでしょう。
ところが、子どもの頃から自分の意見を言いにくい環境で育った人もいます。
家族の中に自己主張の強い人がいた。
意見を言うと揉めた。
反論すると、さらに面倒なことになった。
誰かが怒っていると、自分が引いた方が早く収まった。
そんな経験が続くと、
「自分が我慢すればいい」
「わざわざ言うほどのことではない」
「嫌だと言ったら関係が悪くなる」
という対処を身につけることがあります。
本人は、相手をだましたり、嘘をついたりするつもりで「いいよ」と言っているわけではないのです。
その場では、本当に、
「まあ、これくらいならいいか」
と思っています。
少しくらい嫌でも、自分が合わせれば済む。
関係を悪くするくらいなら、黙っていた方がいい。
そう思います。
つまり、本人の中では、不満を言わないことが人間関係を円滑にする方法になっているのです。
「言わない」と決めても、不満まで消えるわけではない
問題はここからです。
言葉にしなかったからといって、嫌だった気持ちまでなくなるわけではありません。
本当は休日に一人で過ごしたかった。
でも、彼女が楽しみにしているから付き合った。
本当は毎日の長電話が少し負担だった。
でも、寂しがらせるのも悪いと思って応じた。
本当は結婚についてもう少し時間をかけて考えたかった。
でも、「そんなに待たせるのも申し訳ない」と話を進めた。
一つひとつは、その場で伝えれば解決できる程度のことかもしれません。
ところが、
「まあいいか」
が何度も続くと、
「また自分が合わせた」
「どうしてこちらのことは考えてくれないんだろう」
「この人はいつも自分の希望ばかりだ」
という不満へ変わっていくことがあります。
相手は何も聞かされていません。
だから、当然気づきません。
すると本人には、
「こんなに我慢しているのに、全然わかってくれない」
と感じられるようになります。
ここに大きなすれ違いがあります。
言わなかった側は「ずっと我慢してきた」と感じている。
一方、言われなかった側は「そんな話は今初めて聞いた」と受け止めている。
同じ関係を見ているのに、二人が持っている情報量がまるで違うのです。
ある日突然爆発するのは、今日の出来事だけに怒っているわけではない
たとえば彼女が、
「来週、このお店に行かない?」
と聞いただけなのに、彼が突然、
「なんでいつも勝手に決めるの?」
と怒ったとします。
彼女は驚きます。
「いや、聞いただけなんだけど」
となるでしょう。
でも彼の中では、今日の店の話だけではありません。
前回も合わせた。
その前の旅行も本当は気が進まなかった。
電話する時間も自分の希望を言えなかった。
結婚の話も急かされているように感じていた。
それらが全部つながって、
「いつも自分の希望が無視される」
という一つの大きな不満になっていることがあります。
だから、表面上は一つの出来事への怒りなのに、過去の不満まで重なって、必要以上に強く怒っているように見えることがあります。
不満を溜め込みやすい人の中では、
・嫌だと思っても、その場では我慢する
・相手に言わないため、相手は気づかない
・気づいてくれないことで、さらに不満が増える
・過去の不満まで一つにつながっていく
・限界に達したところで、一気に相手へ出る
という流れが起きることがあります。
爆発したあとに、今度は距離を取る人もいる
散々我慢した末に爆発したのだから、言いたいことを言ってすっきりするのかというと、そうとも限りません。
今度は、
「ひどいことを言ってしまった」
「また関係を壊した」
「やっぱり恋愛するとこうなる」
「自分は誰かと付き合うのに向いていない」
と、自分への嫌悪や罪悪感が出てくる人もいます。
すると相手との距離を取りたくなります。
連絡が減る。
会う回数を減らしたがる。
それまであった愛情表現がなくなる。
「少し一人で考えたい」と言う。
言われた側からすれば、さらに混乱します。
昨日まで仲がよかった。
突然不満をぶつけられた。
しかも今度は距離まで取られた。
「そんなに私との関係が嫌だったの?」
と不安になるでしょう。
しかし本人は、相手のことが嫌になったというより、不満を溜めて爆発してしまった自分自身から逃げたくなっている場合があるのです。
自分が嫌いになる。
相手の顔を見ると、自分がしたことを思い出す。
また同じことになる気がする。
だから距離を取る。
こういう流れです。
では「嫌ならそのとき言えばいい」は間違っているのか
ここまで読むと、
「でも結局、言わなかった本人の問題でしょう」
と思うかもしれません。
その通りの部分もあります。
相手には読心術は使えません。
嫌なら嫌だと伝える。
自分の希望を言葉にする。
自分だけで我慢し続けない。
これは、不満を溜める側が取り組む必要のある課題です。
ただ、パートナーシップでは、ここでもう一つ見ておきたいことがあります。
「言えばいいのに」と思っている自分は、本当に相手が言いやすい人なのか。
ということです。
「何でも言って」と言いながら、言われた瞬間に反論していないか
彼に、
「不満があるならちゃんと言ってよ」
と伝えたとします。
数日後、彼が勇気を出して、
「この前の言い方、少しきつく感じた」
と言ってきた。
その瞬間、
「でも、あなたが何度言ってもやらなかったからでしょう」
「そんなつもりで言ったわけじゃないよ」
「それくらいで傷つくの?」
と返したらどうでしょう。
こちらにはこちらの事情があります。
誤解なら説明したい。
自分だけ悪いように言われれば反論したくなる。
それも自然な反応です。
でも彼の側から見ると、
「やっぱり言わない方がよかった」
という経験が一つ増えます。
「何でも言って」と言われたから話した。
ところが話した瞬間に否定された。
だったら、次から黙っておこう。
こうして、ますます言わなくなることがあります。
もちろん、相手が言えない責任をすべて聞き手が背負う必要はありません。
ただ、
相手が不満を言えないことは相手の課題。
相手が不満を言ったとき、二人の間でその話を扱えるかどうかは関係の課題。
ここは分けて考えた方がいいと思います。
自分ができることは、相手にもできると思いやすい
「嫌なら言えばいいのに」
と思う人は、自分は比較的言えるのでしょう。
問題があれば話す。
わからなければ聞く。
決めるなら早く決める。
腹が立ったら、その理由を説明する。
だから、
「なんでそれができないの?」
となります。
これは恋愛だけではありません。
「私は忙しくても連絡するのに」
「私は嫌なことがあればその場で言うのに」
「私はちゃんと謝れるのに」
「私は問題から逃げずに話し合うのに」
自分にできることほど、できない人を見ると腹が立ちます。
しかも、自分自身が努力して身につけた能力なら、なおさらです。
「私だって簡単にできるようになったわけではない。それでもやっている」
と思うからです。
そこで、
「普通はこれくらいできるでしょう」
となります。
でも、自分には簡単に見えることが、相手にとっても簡単とは限りません。
「どちらが正しいか」になると、違いが見えなくなる
たとえば、一人は問題が起きたらすぐ話したい。
もう一人は、しばらく一人で考えないと言葉にならない。
一人は毎日愛情表現が欲しい。
もう一人は、会ったときに気持ちが伝われば十分だと思っている。
一人は結婚について早く具体的に話したい。
もう一人は、関係を積み重ねながら考えたい。
ここで、
「問題があるならすぐ話し合うのが正しい」
「毎日連絡するのが普通」
「本気なら早く結婚を決めるはず」
となると、相手の感覚を理解する前に、「どちらが正しいか」を決めようとしてしまいます。
これは、「正しさの争い」です。
パートナーシップでは、自分とは違う人を相手にしています。
頭ではわかっていても、距離が近くなるほど、
「そこは同じでいてほしい」
という気持ちも出ます。
友人なら、
「へえ、そういう考えなんだ」
で済むことでも、恋人や夫には、
「なんでわかってくれないの?」
となる。
親しい関係だからこそ、違いを受け入れるのが難しくなることがあります。
不満を言いやすい関係を作るには、タイミングも方法も一つにしない
不満を溜め込む人に、
「これからは何でもその場で言って」
と求めても、急には変わらないことがあります。
そんな場合は、二人に合った伝え方を探す必要があります。
たとえば、
「今すぐ答えなくてもいいけど、気になることがあったら教えて」
と伝える。
その場で話しにくいなら、あとからメッセージで伝える。
大事な話は、考える時間を取ってから話す。
たまに、
「最近、私とのことで言いにくかったことはある?」
と確認する。
そして何より、何か言われたときに、すぐ正誤判定をしないことです。
まず、
「あなたにはそう感じられたんだね」
と聞く。
そのあとで、自分の事情や考えを伝える。
これは、相手の言い分をすべて正しいと認めることとは違います。
二人の間で起きたことを知るためです。
話し合うときに確認したいこと
・相手に「今すぐ答えること」を求めていないか
・相手が違う意見を言ったとき、すぐ反論していないか
・自分と同じ方法で伝えることを求めていないか
・不満を聞くことと、自分が悪いと認めることを混同していないか
・二人に合う伝え方や考える時間を相談できているか
それでも、全部をこちらが配慮する必要はない
ここは大切です。
相手が不満を言えない。
だからこちらが毎回確認する。
返事を何日も待つ。
言葉を選び続ける。
相手が爆発しても、「過去があるから仕方ない」と受け止める。
これを全部引き受ける必要はありません。
本人にも、自分の気持ちを言葉にする練習が必要です。
「今日は決められない」
「その言い方は嫌だった」
「今は一人で考えたい」
「これはやりたくない」
そう伝えられるようになることは、本人の課題です。
パートナーができるのは、言いやすい環境を作ることまでです。
本人の代わりに本音を見つけ、毎回先回りして確認し、爆発しないように管理することまではできません。
「違いを理解できる」と「この人と付き合い続けたい」は別
相手の背景がわかると、
「だからこの人は不満を言えなかったのか」
と理解できることがあります。
でも、理解できたから関係を続けなければならないわけではありません。
相手は考えるのに時間がかかる。
私は早く話して解決したい。
相手は一人で過ごす時間が多く必要。
私はもっと一緒にいたい。
相手は愛情を言葉にすることが少ない。
私は言葉でも伝えてほしい。
ここに違いがあります。
歩み寄れるものもあれば、長く一緒に暮らすうえで大きな負担になる違いもあります。
だから、
「相手の事情を理解できない私は未熟なのか」と、自分を責める必要はありません。
理解したうえで、
「この違いがある人と、私はどんな関係を作りたいのか」
を見る必要があります。
相手を変えないと幸せになれないのか。
調整できる範囲なのか。
自分ばかり我慢する関係になっていないか。
それでも一緒にいたいと思うのか。
そこは自分が選ぶ部分です。
自分の側にも、いつものパターンが出ていないか
相手の「溜め込んで爆発する」というパターンは、とても目立ちます。
そのため、どうしても、
「彼の問題をどう直すか」
ばかり考えやすくなります。
でも、恋愛で同じようなことが繰り返されているなら、自分の側も見てみる価値があります。
たとえば、
・自分が決めた方が早いので、いつも関係を主導している
・相手が迷っていると待てず、答えを急がせる
・「話し合いたい」と言いながら、本当は相手に納得してほしい
・違う意見を言われると、すぐ理由を説明して自分の正しさを証明したくなる
・相手から距離を取られると、不安になってさらに近づこうとする
こんなことはないでしょうか。
これは、「だから相手が爆発したのはあなたのせい」という話ではありません。
相手の問題だけを見ていても、二人の間で何が起きているのかは全部見えないということです。
まとめ
不満を溜め込んで、ある日突然爆発する人がいます。
その背景には、自分の気持ちを言うより我慢する方が、関係を守れると学んできた経験があるかもしれません。
でも、言わなかった不満までなくなるわけではありません。
何度も我慢する。
相手は何も知らない。
気づいてくれないことに、さらに腹が立つ。
そして限界で爆発する。
爆発したあとには、罪悪感や自己否定が強くなり、今度は相手から距離を取ることもあります。
一方で、その相手になった人には、
「嫌なら言えばいい」
「問題があるなら話し合えばいい」
という考え方があります。
ただ、自分ができることを相手にも同じように求めると、相手の違いが見えにくくなります。
さらに、「何でも言って」と言いながら、実際に言われたときにすぐ反論しているなら、二人の間に言いにくさが作られていることもあります。
不満を言えるようになるのは、溜め込む本人の課題です。
相手には、違う意見でも話せる関係を作るという課題があります。
どちらか一人が全部を引き受ける話ではありません。
そして、相手を理解することと、その人をパートナーとして選び続けることも分けて考えられます。
カウンセリングでは、相手がなぜこうなるのかだけでなく、二人がどのような組み合わせになっているのかも見ていきます。
相手が黙ると、なぜ自分は待てなくなるのか。
話し合いたいとき、本当は何が不安で、何を確認したいのか。
相手の違う意見を、自分はどのくらい聞けているのか。
そして、この違いを持つ相手と、これからどんな関係を作りたいのか。
相手の性格を分析するのではなく、自分を含めた二人の関係を見ることで、できることと、できないことがわかりやすくなります。



