夫と話し始める前は、自分にもちゃんと考えがあった。
「今日は疲れているから、夕飯は作らずに済ませたい」
「週末くらいゆっくりしたい」
「今回は私はこうしたい」
そう思っていたはずなのに、夫と話しているうちに、自分の考えがわからなくなっていくことがあります。
「あれ? 私の考えの方がおかしいのかな」
「夫の言っていることの方が正しいのかも」
「私がわがままなのかな」
そして結局、その場では、「そうだね。じゃあ、それでいいよ」と答える。
ところが、話し合いは終わったはずなのに、あとになって腹が立ったり、悲しくなったりする。
「納得したはずなのに、どうしてこんなに引っかかるんだろう」と思うこともあります。
そんなとき、見てみたいのは「夫と自分のどちらが正しいか」だけではありません。
自分は本当に納得して決めたのか。それとも、話を終わらせるために自分の意見を引っ込めたのか。
そして二人の間では、これまでどんな話し合いが繰り返されてきたのか。
そこを整理すると、「夫と話すと、いつも私が悪い気がする」という状態が、少し違って見えてくることがあります。
話し合いの途中で、自分の気持ちが置いていかれる
たとえば、あなたが夫に、「今日は疲れたから、夕飯は買ってこない?」と言ったとします。
すると夫から、「でも今月、外食や買ってくることが多くない? 冷蔵庫にも食材があるし、今月は出費も多かったから、今日は家で食べた方がいいと思うけど」と言われた。
一つひとつ聞けば、夫の言っていることにも理由があります。そこで「そうだね」と答え、夕飯を作ることにした。
けれど、料理をしながら腹が立ってくる。
「私、疲れたって言ったんだけどな」
「結局、私が作ることになった」
「また私の希望は後回しになった」
そんな気持ちが出てくる。
この場合、問題は「買ってくるのが正解だったか」「家で作るのが正解だったか」だけではありません。
最初にあった、
「今日は疲れている」
「夕飯を作ることを休みたい」
という気持ちが、話し合いの途中から扱われなくなっています。
夫には、「今月は出費が多い」「冷蔵庫の食材を使いたい」という理由がある。こちらには、「今日はもう疲れていて、夕飯を作りたくない」という事情がある。
本来なら、その両方を出したうえで、
「じゃあ今日はどうする?」
と二人で考えることもできるはずです。
「納得した」のか、「これ以上話すのをやめた」のか
人の意見を聞いて考えが変わること自体は、珍しいことではありません。
「確かにそうだな。今日は家で食べよう」
と思い、自分でそう決めることもあります。
でも、
「これ以上話しても仕方がない」
「反論しても、また説明されるだけ」
「面倒だから、もういい」
「夫の方が詳しいから、たぶんそっちが正しいんだろう」
と思って引いたのであれば、同じ「わかった」と言っていても中身は違います。
その場ではケンカにならずに済みます。でも、自分の中にあった「今日は作りたくなかった」という気持ちは、なくなっていません。
だからあとになって、
「なんで結局、私が作ることになったんだろう」
「いつも夫の言う通りになる」
とモヤモヤすることがあります。
そのモヤモヤがあるときには、「私は本当にこの結論を選んだのだろうか」と見てみる必要があります。
二人が「話し合った」と思っている内容が違うことがある
こうしたことが何度も続いている夫婦では、一回の会話だけでは見えないものがあります。
妻が希望を伝える。夫が自分の考えや理由を説明する。妻は途中から自分の考えに自信がなくなり、
「じゃあ、それでいい」と引く。
夫からすると、意見を出し合った末に二人で決めたつもりです。だから次の話し合いでも、同じように自分の考えを説明します。
ところが妻には、納得できなかった気持ちが残っています。それが積み重なったところで、
「いつもあなたの言う通りじゃない!」と怒ることがあります。
すると夫は、「でも、いつも最後には納得していたじゃないか」と思う。
妻は、「納得なんてしていない。言っても無駄だから黙っていただけ」と思う。
二人は同じ会話をしていたのに、その会話を違うものとして受け取っていたことになります。
夫には、「自分の考えを説明し、妻も同意した。二人で決めた」と見えている。
妻には、「自分の希望を伝えたけれど、夫の説明を聞いているうちに反論できなくなり、最後には諦めた」と見えている。
この違いに気づかないままだと、夫は「ちゃんと話し合っている」と思い、妻は「どうせ私の意見は通らない」と感じるようになります。
なぜ「それでいい」と引いてしまうのだろう
では、納得していないのに、なぜ「それでいい」と言ってしまうのでしょうか。
単に「自信がないから」だけでは説明できないことがあります。
これまで夫に意見を言うたびに、
「でも、それってこういうことだよね?」
「普通に考えたらこうじゃない?」
「それをしたら、あとで困ると思うよ」
と長く説明されてきた人なら、自分の考えを伝え続けるより、
「わかった」
と言った方が早く話が終わると感じるようになることがあります。
夫が不機嫌になったり、話が長引いたりするのが嫌で、自分から引くようになった人もいるでしょう。
また、夫との関係よりずっと前から、意見を言うことに慣れていなかった人もいます。
家族の中で自分の希望を言うと否定されることが多かった。親の言うことを聞いている方が関係がうまくいった。「なぜそう思うの?」と聞かれたときに、理由をきちんと説明できなければ認めてもらえなかった。
そんな経験があると、「うまく説明できない私より、理由をたくさん言える相手の方が正しい」と感じやすくなることがあります。
でも、
「今日は疲れた」
「私は嫌だ」
「私はこっちがいい」
という気持ちは、相手を納得させられるだけの理由がなければ持ってはいけないものではありません。
相手は、押し切っていることに気づいていない場合もある
ここで、相手側から見えていることも考えてみます。
夫は、
「自分の意見を説明した」
「妻も最後には『そうだね』と言った」
「二人で話して決めた」
と思っていることがあります。
妻が途中から諦めていたことには、気づいていないのかもしれません。
問題が出てきたら理由を整理し、解決策を考えることが話し合いだと思っている人もいます。妻が「今日は疲れた」と言ったときにも、その気持ちそのものを聞くより、
「では、どうすれば予定通りできるか」を考え始めることがあります。
一方の妻は、「今日は予定通りやる方法を考えてほしい」のではなく、「今日は予定を変えてもいいのではないかと、一緒に考えてほしい」と思っていた。
その違いが言葉になっていなければ、夫にはわかりません。
そして妻が毎回、
「わかった。それでいいよ」
と答えていれば、夫には「今の話し方で二人は合意できている」と見えることもあります。
自分が納得していないことを自分の中だけに置き続けるほど、二人の認識の差は広がっていきます。
相手の意見に理由があっても、自分の気持ちはなくならない
相手の話を聞いていると、「相手が正しいなら、私は間違っている」と考えてしまうことがあります。
でも、夫の考えに理由があることと、自分の気持ちを取り下げることは別の話です。
「今月は出費が多かった」という夫の考えもある。
「今日は疲れていて、夕飯を作りたくない」という自分の気持ちもある。
どちらか一方しか認められないわけではありません。
たとえば、
「出費を気にしているのはわかった。でも、私は今日は作るのがしんどいんだよね。ほかの方法がないか考えたい」と伝えることもできます。
その場で考えがまとまらないなら、
「あなたの考えはわかった。でも私はまだ納得していないから、少し考えたい」と言ってもいいでしょう。
あるいは、
「今は何を言いたいのかわからなくなってきたから、この話はあとで続けたい」と話を中断する方法もあります。
自分の意見を持つことは、何が何でも相手に勝つことではありません。相手の考えを聞きながら、自分が感じていることも話し合いの中に残しておくことです。
意見が違ったままでも、次の話はできる
夫婦で話し合うと、「最終的には同じ意見にならなければいけない」と思うことがあります。
でも、夫は家で食べたい。妻は今日は作りたくない。ここまで話しても、考えが一致しないことはあります。
そのとき「どちらが正しいか」を決めるだけなら、片方が折れるしかありません。
でも、「二人の希望が違うことはわかった。では今日はどうする?」という話なら続けることができます。
冷蔵庫にあるもので夫が作る。簡単に済ませる。それぞれ好きなものを食べる。今日は買ってきて、別の日に出費を調整する。
二人の事情が見えたところから、最初にはなかった選択肢が出てくることもあります。
大切なのは、必ず意見を一致させることではありません。違いが出たときに、片方の気持ちや考えがなかったことにならないことです。
「違う」と言えないとき、何を怖がっているのか
頭では「自分の意見を言っていい」とわかっていても、実際には言えないことがあります。
そんなとき、「もっと自信を持たなければ」と考えるより、
「私は夫と違う意見を言うと、何が起こると思っているのだろう」
と見てみる方が、その理由がわかることがあります。
怒られるのが怖いのかもしれない。話が長くなるのが嫌なのかもしれない。
「そんなこともわからないの?」と言われたくないのかもしれない。
相手が不機嫌になったり、関係が悪くなったりすることが怖いのかもしれません。
そこには、今の夫との間で経験してきたことが影響している場合もあれば、これまでの人間関係で身につけてきたものが重なっている場合もあります。
なぜ自分が引いてしまうのかがわかってくると、必要なのが単なる言い返し方なのか、それとも二人の関係そのものを見直す必要があるのかも見えやすくなります。
いつも最後には自分が悪いことになるなら
夫婦には意見の違いがありますし、片方が話すのが得意で、もう片方がその場で言葉をまとめるのが苦手ということもあります。
ただ、話し合うたびに、
「そんな考え方だからダメなんだ」
「君は何もわかっていない」
「普通の人ならわかる」
と、自分の考え方や人間性の問題にされる。
違う意見を言うと馬鹿にされたり、長時間責められたりする。断ると相手が強く怒るため、怖くて従うしかない。
そのような状態なら、「自分がもっと上手に話せばいい」と考えるだけではどうにもなりません。
二人の間に、自分の意見を言える余地があるのかというところから見る必要があります。
二人だけで話すと毎回同じ形になったり、相手への怖さが強かったりする場合には、信頼できる人やカウンセラーなど、他の人と一度整理することもできます。
これから、どんな話し合いができる関係でいたいのか
「夫にどう言い返したらいいか」と考えれば、返事の仕方はいくつも作れます。
でも、本当に望んでいるのは、毎回うまく切り返せるようになることでしょうか。
「意見が違っても、自分の考えを言える関係でいたい」
「わからなくなったら、一度考える時間を持ちたい」
「夫の考えも聞きたいし、私の気持ちも聞いてほしい」
本当は、そんな関係を望んでいるのかもしれません。
そう考えると、「今日、夕飯をどうするか」だけが問題ではなくなります。
二人が違う意見を持ったときに、どんな話し合いができる夫婦でいたいのか。
今まで「説明する側」と「最後に引く側」になっていたのであれば、その関わり方をこれからも続けたいのか。
そこまで見ていくことが、自分のこれからを選ぶことにつながります。
まとめ|「私が間違っているのかな」と思ったときに
夫と話しているうちに、
「私が悪いのかな」
「私の考えの方がおかしいのかな」
と思い、最後には夫の意見に合わせる。
でも、あとになってモヤモヤする。
そんなことが繰り返されているなら、「私に自信がないから」と自分だけの問題にして終わらせなくてもよいと思います。
二人の間で、どちらが多く説明するのか。
どちらが最後に引くのか。
「わかった」と言ったとき、本当に納得しているのか。
自分が引いたことを、相手は合意だと思っていないか。
そうしたやり取りを見ていくと、自分一人の心の中だけを見ていたときには気づかなかったことが出てきます。
そして、自分が引くようになったことにも理由があります。
関係を壊したくなかったのかもしれないし、相手の言うことを受け入れることで、これまで関係を保ってきたのかもしれません。
カウンセリングでは、夫の言い分が正しいか、自分の言い分が正しいかを決めるよりも、実際にどんな会話が起き、自分がどこで気持ちを引っ込め、相手がそれをどう受け取っているのかを整理していくことがあります。
さらに、なぜ違う意見を持つことがこれほど難しいのか、これまでどんな人間関係の中で自分の意見を引っ込めてきたのかも見ながら、これから自分はこの人とどんな話し合いができる関係でいたいのかを考えていきます。
相手と同じ意見になることだけが、夫婦の話し合いではありません。
「あなたはそう考えている。私はこう思っている」
その二つが同時にあってもいい。
自分の意見を通すことが目的なのではなく、自分の気持ちを消さずに相手と関われること。
そこから二人がどうするのかを考えられる関係を、これから選んでいくことが大切なのだと思います。




