「結婚したら、今までのようには働けないかもしれない」
「子どもを持つなら、責任のある仕事は引き受けないほうがいいのかな」
「夫の仕事が忙しいなら、私が家庭を優先することになるよね」
結婚や出産を考えたとき、女性が自分の働き方をどう変えるかについて悩むことは珍しくありません。
現実に、結婚や出産を機に仕事を辞めたり、勤務時間を減らしたり、昇進を見送ったりするのは、女性側であることが多いでしょう。
妊娠や出産は女性の身体に起こります。
夫婦に収入差があれば、収入が低い側が仕事を減らすほうが、家計への影響も抑えられます。
夫は帰宅が遅く、妻のほうが休みを取りやすい。
保育園から連絡が来たときに動けるのは妻だけ。
そのような条件が重なれば、女性が仕事をセーブする形になることはあります。
ですから、この問題を、
「女性が古い価値観にとらわれているから」
「もっと自分の希望を主張すればいい」
と、本人の考え方だけで説明することはできません。
ただし、現実に女性が仕事を調整することが多いからといって、最初からそれを当然の役割にしてよいわけでもありません。
「現実的だから」と「女性がやるのが当然」は違う
夫のほうが収入が高い。
妻の職場のほうが、勤務時間を変更しやすい。
出産後は、妻が子どものそばにいたいと考えている。
二人で話し合った結果、妻が仕事を減らすこともあるでしょう。
それは、家庭の状況に合わせた現実的な選択です。
しかし、
「子どもができたら、妻が仕事を減らすものだ」
「夫の仕事に影響を出さないように、妻が調整するべきだ」
「家庭のことは女性のほうがよくわかる」
という前提で決まるのとは違います。
同じように女性が仕事をセーブする結果になったとしても、二人で条件を確認して決めたのか、話し合う前から女性の担当とされたのかでは、意味が変わります。
女性が納得して選んだように見えても、
「ほかに選択肢がなかった」
「自分が引き受けなければ家庭が回らなかった」
ということもあります。
その状態で、
「自分で決めたことなのだから」
と扱われれば、不満が残るのは当然でしょう。
女性が先に「自分を調整しよう」と考える
まだ結婚生活が始まっていないうちから、
「私が残業を減らさないと」
「私が家事をできる働き方に変えないと」
「夫が転勤になったら、私が辞めることになる」
と考える女性もいます。
ここでは、二人で話し合う前に、すでに自分が家庭の調整役になっています。
なぜ夫の仕事は今までどおりで、自分の仕事だけが変更の対象になるのでしょうか。
もちろん、実際には夫の仕事を変えにくい事情もあります。
ただ、その事情を確認する前から、
「男性の仕事は動かせない」
「女性の仕事は家庭に合わせられる」
と考えている場合もあります。
育った家庭で、父親は仕事を優先し、母親が家族の予定に合わせていた。
家事や育児について考えるのは、いつも母親だった。
周囲でも、夫の転勤に妻がついていき、子どものことで休むのは母親だった。
そうした夫婦の形を多く見てきた人にとって、女性が調整することは特別なことではありません。
結婚生活とは、そういうものだと受け取っていることがあります。
仕事をセーブすると、勤務時間以外にも変わることがある
仕事を減らすというと、働く時間や収入だけの問題に見えます。
けれども、実際にはそれ以外にも変化があります。
担当できる仕事が限られる。
昇進の時期が遅れる。
経験を積む機会が減る。
いったん退職すると、同じ条件では戻りにくくなる。
自分の収入が減り、夫に経済的に頼る割合が増える。
家庭以外の人間関係が減る。
仕事を通じて感じていた充実感を失う。
もちろん、仕事を減らすことで得られるものもあります。
子どもと過ごす時間が増える。
生活に余裕ができる。
今までとは違う働き方を選べる。
家庭を中心にした生活を望んでいた人にとっては、納得できる選択にもなります。
大切なのは、仕事を減らすことを良いか悪いかで判断することではありません。
仕事を減らすことで何が変わるのかを、本人だけでなく、夫婦二人が理解しているかどうかです。
「収入が低いほうが休む」は合理的に見えるけれど
夫婦に収入差がある場合、収入が低い側が仕事を減らしたほうが、今の家計への影響は少なくなります。
そのため、妻が時短勤務を選んだり、子どもの体調不良に対応したりすることがあります。
一度だけなら、合理的な判断に見えます。
ただ、その状態が続くと、妻は経験や昇進の機会を失い、夫婦の収入差はさらに広がります。
収入差が広がれば、次に仕事を調整する必要が出たときも、
「収入が低い妻が休んだほうがいい」
という結論になります。
こうして、最初の現実的な判断が、その後の役割を固定することがあります。
今の収入だけで決めるのではなく、
仕事を減らした側の将来の収入はどうなるのか。
働き方を戻すことはできるのか。
仕事を減らしたことで生じる負担を、家庭の中でどう扱うのか。
というところまで考える必要があります。
家事や育児は、作業だけではない
夫も家事や育児をしている家庭であっても、家庭全体を管理する役割は妻に残っていることがあります。
献立を考える。
足りないものに気づく。
子どもの予防接種や学校行事を確認する。
夫に頼むことを決める。
家族の予定が重ならないように調整する。
夫は頼まれた作業をしていても、
「何をする必要があるかを考える人」
は妻のままです。
その状態で妻が仕事も続ければ、職場にいても家庭のことを考えることになります。
夫が家事を手伝っているかどうかだけではなく、
誰が家庭の予定を把握しているのか。
誰が必要なことに気づく役なのか。
誰が家族へ指示を出しているのか。
という部分も分ける必要があります。
女性が仕事を続けたいと言うと、なぜ「家庭はどうするの?」と聞かれるのか
男性が結婚後も仕事を続けたいと言っても、特別な希望として扱われることはあまりありません。
一方で、女性が、
「結婚しても今の仕事を続けたい」
「子どもが生まれても昇進を諦めたくない」
と言うと、
「では、家事や育児はどうするの?」
という話になりやすいものです。
本来、それは夫婦二人に向けられる質問です。
けれども女性だけが、
仕事を続けるなら、家庭のことをどうするのか説明しなければならない。
家族へ負担をかけない方法を考えなければならない。
仕事も家庭もできることを示さなければならない。
という立場になることがあります。
そのため、仕事を続けたいという希望を口にするだけで、身勝手なことを言っているように感じる女性もいます。
しかし、女性が仕事を続けることで家庭に問題が起きるのではなく、家庭を一人で担う前提のまま仕事も続けようとするから、両立が難しくなるのです。
「私に両立できるか」ではなく「二人でどうするか」
結婚と仕事について悩むとき、
「私に仕事と家庭の両立ができるだろうか」
と考えがちです。
仕事も家事も効率よくできるか。
子どもの急な予定にも対応できるか。
疲れていても、家庭をきちんと維持できるか。
しかし、結婚生活は一人で成り立たせるものではありません。
考える必要があるのは、
二人はどのように働きたいのか。
家事や育児を誰が担当するのか。
子どもの体調不良や学校行事には、どちらが対応するのか。
転勤や介護が必要になったとき、誰の仕事を動かすのか。
一方が仕事を減らした場合、その影響を二人の問題として考えられるか。
ということです。
半分ずつに分ければよいという話でもありません。
妊娠や出産など、同じようには分けられないこともあります。
仕事の繁忙期や体調によって、どちらかの負担が増える時期もあるでしょう。
それでも、
「今は妻の負担が多いけれど、それを当然にはしない」
「状況が変わったら、役割も見直す」
「妻が仕事を減らしたことで失ったものを、妻だけの問題にしない」
と考えられるかどうかが重要です。
自分は仕事の何を残したいのか
仕事を続けるか辞めるかの二択ではなく、自分は仕事の何を残したいのかを考えてみます。
収入を得ることなのか。
これまで積み上げてきた経験なのか。
将来も働き続けられる状態なのか。
人と関わる場所なのか。
責任のある仕事に挑戦することなのか。
家庭以外の居場所なのか。
すべてを今までどおり残すのが難しい場合もあります。
それでも、何を失いたくないのかがわかれば、働き方を検討しやすくなります。
勤務時間は減らしても、専門性を保つ。
いったん仕事を離れるとしても、戻る方法を考えておく。
今は昇進を見送っても、いつ見直すのかを決める。
夫の転勤についていく以外の方法も検討する。
現実の条件によって選べないこともあります。
だからこそ、仕事をセーブすることを女性一人の判断にせず、二人で失うものと得るものを確認する必要があります。
結婚前に話すのは、理想ではなく生活のこと
結婚前には、家事や育児について話していても、
「できるほうがやればいい」
「二人で協力しよう」
という話で終わることがあります。
けれども、実際の生活では、もう少し具体的に考える必要があります。
毎日の食事は誰が考えるのか。
掃除や洗濯は、どこまでを誰が担当するのか。
子どもが発熱したとき、どちらが仕事を休むのか。
保育園や学校からの連絡先は、誰にするのか。
夫の転勤が決まったとき、妻が退職することを前提にしないか。
どちらかの親に支援や介護が必要になったとき、誰が動くのか。
仕事を減らす必要が出たとき、なぜ女性側なのか。
実際には予定どおりにいかないこともあります。
それでも、最初から妻が対応するものとせず、二人の生活の問題として話せるかどうかは見ておきたいところです。
仕事をセーブすることを否定しなくていい
結婚や出産をきっかけに、仕事を減らしたいと思う女性もいます。
家庭で過ごす時間を増やしたい。
今までとは違う働き方をしたい。
子どもとの時間を優先したい。
仕事に使っていた力を、ほかのことへ向けたい。
そう望んで選ぶのであれば、仕事をセーブすることも一つの生き方です。
ただし、
「妻になるのだから」
「母親なのだから」
「夫の仕事のほうが大事だから」
と、自分の希望を確認しないまま決めると、あとから不満が出ることがあります。
そして、その不満を、
「自分で選んだのだから言ってはいけない」
と抑える必要もありません。
そのときは必要だと思って選んだ。
けれども、実際に生活してみたら負担が大きかった。
思っていた以上に、失ったものがあった。
相手が当然のように受け取ることがつらかった。
そう感じたなら、今の分担を見直すことができます。
一度決めた役割を、ずっと続けなければならないわけではありません。
「結婚かキャリアか」を女性一人の問題にしない
女性が仕事をセーブすることが多い現実はあります。
それは、本人の思い込みだけでなく、妊娠や出産、夫婦の収入差、職場の制度、家事や育児の偏りなど、さまざまな条件によって起こります。
だからといって、
「女性が調整するのは仕方がない」
で終わらせてしまえば、その負担も不利益も女性一人が引き受けることになります。
大切なのは、女性が仕事を続けることを正解にすることでも、家庭を優先する選択を否定することでもありません。
誰が仕事を減らすのか。
なぜその人なのか。
その選択によって何を失うのか。
負担が偏ったとき、どう見直すのか。
それを二人の問題として考えられるかどうかです。
カウンセリングでは、結婚か仕事かの答えを決めるのではなく、女性がすでに一人で引き受けている前提を整理することがあります。
結婚したら自分が家庭を回すものだと思っていないか。
仕事を続けたいと言うことに、なぜ遠慮が出るのか。
母親と違う生き方を選ぶことに、罪悪感がないか。
現実に変えられない条件と、話し合う前から諦めていることが一緒になっていないか。
そこを分けて考えることで、自分だけが努力して両立させる形から、二人で生活を組み立てる形へ変えていけます。
結婚したら仕事をセーブするのか。
仕事を続けるなら、家庭をどうするのか。
その質問を女性一人へ向けるのではなく、
二人はどのように働き、どのように日々の暮らしを成り立たせていくのか
と考えることが、この問題の出発点になります。




