「普段はそんなに怒らないのに、どうしてあんなにキレてしまったんだろう」
職場で我慢の限界になり、上司に強く言い返して、そのまま会社を辞めてしまった。恋人とのケンカで、もう二度と会わないと言ってしまった。子どもが何度言っても言うことを聞かず、気づけば自分でも驚くような大声で怒鳴っていた。
あとになれば、「あそこまで怒る必要はなかった」「もう少し冷静になれたはず」とわかります。それなのに、その瞬間になると止められない。
そして、「今度こそキレないようにしよう」と決めるのに、しばらくするとまた同じことが起きる。
普段は穏やかなのに、ときどき自分でも制御できないほど怒ってしまう人の中では、何が起きているのでしょうか。
この記事では、怒りを我慢しているつもりなのに突然爆発してしまうのは何故なのか、その繰り返しから抜けるために見ておきたいことについてお話しします。
キレる人が、怒りっぽいとは限らない
突然キレてしまう人というと、普段から短気で怒りっぽい人を想像するかもしれません。
でも実際には、周囲から「穏やかな人」「優しい人」「めったに怒らない人」と思われている人が、ある日突然、強い怒りを爆発させることがあります。
多少嫌なことがあっても、「まあいいか」と流す。頼まれたら引き受ける。本当は嫌でも、相手との関係を悪くしたくなくて黙る。腹が立っても、自分の中で収めようとする。
本人としては、うまく我慢できているつもりです。
ところが、我慢できていることと、感情をうまく扱えていることは同じではないのです。
嫌だったことを「別にたいしたことじゃない」と片づけたり、腹が立った気持ちをなかったことにしたりしても、その気持ちまで消えているわけではないのです。
爆発する前には、ちょっとした「嫌だ」がたくさんある
怒りが爆発した時、周りから見ると「そんなことで、そこまで怒る?」と思うことがあります。
本人も、あとから同じように感じることがあります。
けれど、実際には、その日の出来事ひとつに怒っているわけではなかったりします。
たとえば職場で、何度も自分ばかり仕事を頼まれていた。本当は断りたかったけれど、嫌な顔をされたくなくて引き受けてきた。頑張っても感謝されず、それでも「仕事だから」と飲み込んできた。
そこへある日、上司から何気なく「これもお願い」と言われる。
頼まれた仕事そのものは、たいしたものではないかもしれません。でも、その一言に、それまでの「また私?」「どうしていつも私ばかり」「もう無理」という気持ちが重なります。
そして、「いい加減にしてください!」と爆発する。
つまり、最後の一言が大きな怒りを作ったというより、そこまでに言えなかった小さな「嫌だ」が積み重なっているのです。
怒りの前にある気持ちに気づいていないこともある
怒りだけが、感じている感情とは限りません。
本当は、傷ついた。寂しかった。悔しかった。怖かった。軽く扱われたように感じた。わかってほしかった。
そうした気持ちが先にあることが多いものです。
でも、それらを感じることが苦手な人もいます。
誰かに傷つけられても、「こんなことで傷つく方がおかしい」と考える。寂しくても、「大人なんだから」と我慢する。助けてほしくても、「自分でやればいい」と片づける。
すると、細かい感情には気づかないまま過ごしていくことになります。
そして最後に残るのが、怒りです。
「悲しかった」「傷ついた」「もう無理だった」という段階では気づかなかったものが、怒りになって大きく出た時に、ようやく自分にもわかる。
そのため、突然キレてしまう人の中には、怒りが強すぎるというより、怒りになる前の感情に気づくのが遅い人も結構いるのです。
「怒ってはいけない」と思うほど、怒りが大きくなることがある
普段あまり怒らない人ほど、「怒るのはよくないこと」と考えていることがあります。
人に迷惑をかけてはいけない。感情的になるのは大人げない。嫌なことがあっても我慢するのが普通。相手にも事情があるのだから、自分が少し譲ればいい。
そうやってきた人にとって、「腹が立った」と認めること自体が難しい場合があります。
子どもの頃から、怒ると親に叱られた人もいるでしょう。親が怖くて、反抗できなかった人もいます。家族の中で揉め事が起こると、自分が黙ることでその場を収めてきた人もいるかもしれません。また、親が頻繁に怒る人で、怒り自体を嫌っていることもあります。
そういう経験が続くと、「怒ると関係が悪くなる」「自分が我慢した方がうまくいく」と覚えることがあります。
だから、大人になっても、ちょっとした不満を伝えることができなくなります。
ところが、怒りを表に出さないことと、怒りを感じなくなることは別です。
小さいうちに出せなかった怒りは、もっと大きくなってから出てくることになるのです。
その瞬間、目の前の相手だけに怒っているとは限らない
もう一つ、突然の爆発が大きくなる理由があります。
今起きていることに、過去の経験が重なることです。
たとえば、上司から少し強い口調で注意された時に、自分でも驚くほど腹が立ったとします。
その人の中に、子どもの頃から「何をしても認めてもらえなかった」「いつもダメだと言われた」「自分の意見を聞いてもらえなかった」という経験があれば、今の上司の一言が、ただの注意以上のものに感じられることがあります。
「また否定された」
「またバカにされた」
「また私のことなんてどうでもいいんだ」
目の前では今の上司に怒っていても、心の中では、もっと前から抱えていた悔しさまで一緒に感じている。
だから怒りが大きくなるのです。
恋人の何気ない態度に激しく反応してしまう時も、子どもにキレてしまう時も、「今の出来事だけでは説明しにくいほど感情が大きい」と感じるなら、その前から何かを抱えていなかったかを見てみる必要があります。
キレたあとの自己嫌悪が、次の爆発につながることもある
怒りを爆発させたあと、多くの人は後悔します。
言いすぎた。怖い思いをさせた。あんなことを言うつもりではなかった。
特に、子どもに怒鳴ってしまった時などは、「自分はなんてひどい親なんだ」と強く自分を責めることもあります。
そして、「もう絶対に怒らない」と決める。
ところが、この決意が次の問題を作ることがあります。
「怒らないようにしよう」とすると、また小さな怒りを抑えるからです。
少し嫌だった。でも怒ってはいけない。疲れている。でも子どもに当たってはいけない。本当は腹が立っている。でもまた失敗したくない。
そうして我慢が始まり、また限界まできたところで爆発する。
【我慢する → 限界になる → 爆発する → 後悔する → もっと我慢する】
この繰り返しになってしまうのです。
爆発する前には、すでに限界を超えていることがある
突然キレてしまった後、「あの時、我慢すればよかった」と考えがちです。
もちろん、言葉や行動に出す前にその場を離れることは役に立ちます。
ただ、本当に大事なのは、爆発する直前より、もっと前です。
朝から疲れていた。何日も寝不足だった。仕事で嫌なことが続いていた。人に頼まれたことを断れなかった。家でも自分の時間が取れなかった。
その状態で、子どもが言うことを聞かなかった。
すると、子どもの行動だけが原因のように見えますが、実際にはその時点ですでに心に余裕がなくなっています。
爆発を止めようとするなら、「キレそうになった時」だけではなく、限界に近づいている自分にもっと早く気づくことが必要です。
「嫌だ」と言えることが、爆発を減らしていく
怒りをなくす必要はありません。
むしろ、「ちょっと嫌だった」と言えることの方が大切です。
「今日はこれ以上できない」
「その言い方は嫌だった」
「今は話したくない」
「それは引き受けられない」
「少し一人になりたい」
こうしたちょっとした言葉が言えないまま我慢していると、最後には爆発してしまうことがあるのです。
普段から「嫌だった」「疲れた」「無理だ」と自分の気持ちを認めることも必要です。
相手に伝えられなくても、まず自分がわかっているだけでも違います。
自分が自分に対して「そんなことで怒るな」と気持ちを押さえ込んでしまえば、逃げ場がなくなります。
繰り返すなら、「怒り方」より前を見てみる
キレることで仕事を辞めてしまった。恋人との関係を何度も壊してしまう。子どもに怒鳴っては後悔する。
そういうことを繰り返しているなら、「怒らない方法」を習得しようとしてもなかなか難しいものです。
自分はなぜ嫌なことを嫌と言えないのか。なぜ限界まで頑張るのか。怒ると何が起きると思っているのか。誰かに不満を伝えることを、なぜこんなにダメなことだと感じるのか。
そこには、これまでの人間関係の中で身につけてきたやり方が関係していることがあります。
自分では「今回は会社のこと」「今回は恋人のこと」「今回は子どものこと」と思っていても、いつも限界まで我慢し、最後に爆発して関係を切るという流れが似ているなら、相手が変わっても同じことが起きる可能性があります。
そんな時は、爆発した場面だけを見るのではなく、その前に何を我慢し、何を感じないようにしていたのかを見ていくことが必要です。
まとめ|怒らないことより、爆発する前の自分に気づく
突然キレてしまうと、「自分は感情をコントロールできない人間なのではないか」と思ってしまいます。
でも、普段から何に対しても怒っているわけではないと思うのです。
むしろ、ちょっとした不満や傷つついたことを抑え込み、限界まで我慢してから怒りが出ていることがあるのです。
だから必要なのは、
「本当は嫌だった」
「もう疲れている」
「傷ついた」
「これ以上は無理」
そんな気持ちに、爆発する前に自分が気づけるようになることです。
それでも同じことを何度も繰り返してしまう時には、「なぜ私はここまで我慢してしまうのだろう」というところから見ていくと、それまで気づかなかったものが見えてくることがあります。
カウンセリングでは、怒りを悪いものとして押さえ込むのではなく、怒りが出るまでに何があったのか、その人がどんなふうに自分の気持ちを扱ってきたのかを一緒に見ていきます。
仕事を辞めてしまうほど怒った。恋人との関係を壊してしまった。子どもにまた怒鳴ってしまった。
「もう二度としない」と自分を責めることだけでは変わらなかったなら、爆発した瞬間ではなく、そのずっと前から始まっていることに目を向けてみてもいいのかもしれません。



