夫の帰りが最近遅い。スマートフォンの扱い方も以前とは違う。何となく態度もよそよそしい。
「もしかして、浮気しているのでは?」
そう思い始めると、本当のことを知りたくなります。知らないところで騙されているのも、裏切られているのに自分だけ何も知らないのも耐えられない。「本当のことを話して」と聞きたくなるでしょう。
ところが、いざ夫に聞こうとすると怖くなる。
もし本当に浮気していたらどうしよう。今まで信じていたものが全部違って見えてしまったら、自分はどうなるのだろう。
知りたいのに、知りたくない。
人は、矛盾する気持ちを同時に持つことがあります。会いたいけれど会いたくない、離れたいけれど離れたくない、信じたいけれど疑ってしまう。夫の浮気を疑っているときにも、「本当のことを知りたい」と「もし本当なら知りたくない」が同時に出てくるのです。
「知りたい」のは、騙されたままでいたくないから
浮気を疑ったときに事実を知りたくなるのは、自然なことです。
もし本当に夫が別の女性と関係を持っているのなら、何も知らずにいつも通り接していることが耐えられない。「仕事だった」と言われて信じていた時間も、「友達と会ってくる」と言われて送り出したことも、もし嘘だったらと思うと腹が立つでしょう。
浮気そのものへの怒りだけではありません。「私は何も知らずにいたの?」「ずっと騙されていたの?」という悔しさもあります。
だから、知りたいのです。
本当のことを知れば傷つくかもしれない。でも、知らないまま裏切られているかもしれない状態も苦しい。だから確かめたくなります。
「知りたくない」のは、現実になってしまうのが怖いから
一方で、疑っている間は、まだいくつかの可能性を残しておけます。
「仕事が忙しいだけかもしれない」「私の考えすぎかもしれない」「たまたま最近様子が違うだけかもしれない」と思うことができます。
そして、夫といつも通り食事をし、家族として過ごし、それまでの日常を続けることもできます。
ところが、もし浮気が事実だとわかれば、それまで避けていた感情が一気に出てくることになります。怒り、悲しみ、憤り、不安、悔しさ。「私は何だったのだろう」と感じることもあります。
夫に愛されていると思っていた自分の見ていた世界まで揺らぐことになります。
だから、聞くことが怖くなるのです。
ただ事実を一つ知るだけではありません。知った瞬間から、自分の中でいろいろな感情が動き始める。それを心のどこかでわかっているから、簡単には聞けないのです。
「そんなはずはない」と思いたくなることもある
周囲の人に話したら「それはかなり怪しいんじゃない?」と言われた。それでも自分では、「そんなはずはない」と思おうとすることがあります。
これは、本当に夫を信じている場合とは少し違います。
夫に愛されているという感覚があり、そもそも浮気という考えが浮かんでこない人もいます。その場合には、多少帰宅が遅くても「忙しいんだろうな」と思える。
ところが、心のどこかには疑いがあるのに、「そんなことはない」と何度も打ち消そうとする場合があります。
怪しい出来事が一つ増えても、「きっと理由がある」と思う。さらに別のことがあっても、「偶然かもしれない」と思おうとする。
これは、もし浮気だったときに受ける衝撃があまりに大きいため、心がそこから自分を守ろうとしているのです。
夫を疑っている自分も嫌になる
浮気への疑いが苦しい理由は、夫のことだけではありません。
「こんなに夫を疑うなんて、私は嫌な妻なのではないか」「夫婦なのだから信じるべきではないか」と、自分を責めることがあります。
もし浮気が勘違いだったら、疑ったことで夫を傷つけるかもしれない。夫との関係を悪くしてしまうかもしれない。そんな心配も出てきます。
すると、夫の行動は気になるのに、聞くことができなくなります。
「私は考えすぎているだけ」と何度も自分に言い聞かせても、疑いそのものは消えません。だからまた夫の行動が気になり、そのたびに「こんな自分は嫌だ」と責める。
こうして、夫への疑いと自分への嫌悪が重なっていくことがあります。
聞けないから、自分で確かめたくなる
夫に直接聞くことが怖いと、別の方法で確かめたくなります。
帰宅時間を細かく気にする。スマートフォンを見たくなる。SNSを調べる。夫の話に矛盾がないか確かめる。遠回しに質問したり、カマをかけたりすることもあるでしょう。
ここには、「知らないままではいられない。でも本人に聞いて本当だったら怖い」という二つの気持ちがあります。
さらに、「聞いたところで正直に話してくれるとは限らない」という思いもあります。
以前にも浮気をされたことがある。嘘をつかれた。問いただしてもうやむやにされた。そんな経験があれば、なおさら「聞いても本当のことは言わない」と思うでしょう。
だから、まず証拠を集めようとします。
疑いが強くなると、怪しいものばかりが目につきやすくなる
一度「浮気しているかもしれない」と思うと、それに関係する情報が目につきやすくなります。
スマートフォンを触っている。帰宅が少し遅い。服装が変わった。以前なら気にしなかったことまで、「これも浮気のせいでは」と結びつけたくなることがあります。
ネットで情報を探すときも同じです。
「浮気がわかったら夫婦は終わる」と強く恐れていれば、修羅場や離婚の話ばかりが目に入ることがあります。実際には、浮気がわかってから夫婦関係を続けている人の話もあるのに、そちらにはほとんど意識が向かないのです。
不安が強いと、自分が恐れていることに関する情報を集めやすくなるのです。
だから、怪しいものが見つかったときにも、「実際に起きていること」と「そこから自分が考えていること」を分けてみることが大切です。
過去の裏切りがあると、もっと聞けなくなることもある
以前にも夫の浮気があった場合や、別のことで嘘をつかれた経験がある場合には、今回の疑いはさらに苦しくなります。
「あのときも何もないと言っていた」「最後まで本当のことを話さなかった」という経験があると、夫の言葉をそのまま信じることが難しくなります。
それなのに、「また浮気しているかもしれない」と認めるのもつらい。
一度大きく傷ついたからこそ、「また同じことだったら」という恐れも強くなります。
怪しいことがいくつあっても、「今回は違うかもしれない」と思いたくなる。反対に、少しの変化でも「また同じことが起きている」と感じる。
過去の傷があると、今起きていることを見るだけでは済まなくなります。以前の恐れまで一緒に動き出すからです。
知らないままでいることで、守っているものもある
知らないままでいることには、苦しさがあります。でも同時に、それによって守られているものもあります。
今まで通り生活できる。夫婦関係はまだ壊れていないと思える。怒りや悲しみに向き合わなくて済む。これからどうするのかを考えなくていい。つまり、今の生活を変えなくて済みます。
浮気がわかったからといって必ず離婚になるわけではありません。それでも、事実を知れば、夫を見る目も、自分の気持ちも、それまでと同じではいられないかもしれません。
だから、「知らない方がいいのかもしれない」と思う気持ちも出てきます。それでも疑いは消えない。知るのも怖い。知らないままも苦しい。その間で揺れていると、どうしたらいいのかわからなくなるのです。
聞くことが怖いのは、これまでの夫婦関係も影響する
もともと夫に言いたいことを言いにくい関係だった場合には、浮気について聞くことはさらに難しくなります。
普段から夫が怒りやすい。何か尋ねると強く言い返される。自分の意見を伝えると「面倒くさい」と言われる。そんな関係なら、「浮気しているの?」と聞いたときにどれほど怒るだろうと考えるでしょう。
浮気を疑ったことで突然聞けなくなったのではなく、それまでの夫婦関係の中で、すでに「聞きたいことを聞けない」「相手の機嫌を気にしてしまう」というやり取りがあったのかもしれません。
こういう場合、浮気だけを問題にしても、苦しさの全部は説明できません。
二人の間で、これまでどんな話し方をしてきたのか。自分は言いたいことを言えていたのか。そこも関係しています。
何のために聞くのかを考えてみる
夫に聞けば、本当のことがわかるとは限りません。
浮気をしている人が、尋ねられたからといってすぐに認めるとは限らないからです。否定する人もいますし、一部だけ話す人、話をそらす人もいます。
だから、「勇気を出して聞けば全部はっきりする」と考えなくてもいいと思います。
その前に考えておきたいのは、「私は何のために聞きたいのだろう」ということです。
騙されたままでいたくないからなのか。疑ったままでは夫婦関係を続けられないからなのか。自分がこれほど不安になっていることを夫にも知ってほしいのか。
もし「浮気が事実なら離婚する」とすでに決めていて、そのために証拠が必要なのであれば、夫に問いただす前に専門家へ相談した方がよい場合もあります。
一方で、できれば夫婦関係を続けたい、もし浮気しているなら相手との関係を終わらせて今後について話し合いたい、と思っているのであれば、聞くことには別の意味があります。
浮気を認めさせることだけが目的ではなく、疑いを抱えたままの関係をどうするのかを話すためです。
今は聞けない、ということもある
浮気を疑っている段階で、この先のことを全部決める必要はありません。実際に浮気だったらどうするのか、自分でもわからないことがあります。
それでも、今どうしても聞けないのであれば、「私は何を知ることが一番怖いのだろう」と考えてみることはできます。
浮気していることそのものなのか。夫に愛されていなかったように感じることなのか。嘘をつかれていたことなのか。今までの日常が変わることなのか。
恐れているものが少し見えてくると、なぜ自分が動けなくなっているのかもわかりやすくなります。
「まだ浮気だと決まったわけではないから、相談するほどではない」と思う方もいます。でも、わからないからこそ苦しい時期もあります。
カウンセリングでは、夫が浮気しているかどうかを断定することはできません。ただ、何を見て何を感じているのか、何がこれほど怖いのか、これからの夫婦関係をどうしたいと思っているのかを整理していくことはできます。
「疑っている。でも聞くのが怖い」
その段階で相談しても大丈夫です。



