夫婦なのに、話すことがない。
必要なことは話します。
「今日、ご飯いる?」
「明日は何時に出る?」
「これ、やっておいてくれる?」
生活するための会話はあるけれど、それ以外に何を話せばいいのかわからない。
二人で食事に行っても、それほど話題がない。
家にいても、それぞれスマホを見たり、テレビを見たりしている。
昔は何時間でも話していたはずなのに。
「長く夫婦をやっていれば、こんなものなのかな」
そう思っている人もいるかもしれません。
けれど、「夫婦で話すことがない」という状態は、単に長く一緒にいるから起きるとは限りません。
二人の間で何度も何度も繰り返されてきたことの結果として、話さなくなっていることもあります。
出会った頃は、話すことがたくさんあった
恋愛の初めの頃を思い出してみると、相手について知らないことばかりだったのではないでしょうか。
好きな食べ物。
仕事のこと。
友人のこと。
子どもの頃のこと。
どんな音楽が好きなのか。
休日には何をしているのか。
これから何をしたいと思っているのか。
ひとつ知るたびに、「もっと知りたい」と思います。
自分のことを聞いてもらえるのもうれしいし、相手が話してくれることもうれしい。
心理学では、こうした恋愛初期を「ロマンス期」と呼ぶことがあります。
いわゆる「あばたもえくぼ」の時期です。
少しくらい考え方が違っても、「そんなふうに考えるんだ。面白いね」と思えます。
相手の癖まで魅力的に見えたりします。
この頃は、相手に興味を持つことがとても自然なのです。
一緒に暮らすと、「違い」が問題になってくる
ところが、一緒に過ごす時間が長くなってくると、少しずつ違うものが見えてきます。
お金の使い方。
片づけ方。
休日の過ごし方。
仕事と家庭の優先順位。
子どもへの接し方。
親との付き合い方。
一つひとつは、その人がこれまでの人生の中で身につけてきた「自分のやり方」です。
恋愛の初めには魅力的に見えていた違いも、毎日の生活の中では、「どうしてそうするの?」に変わっていくことがあります。
こちらにはこちらの「普通」があり、相手には相手の「普通」がある。
「私はこうした方がいいと思う」
「いや、僕はこう思う」
お互いに自分の考え方ややり方をわかってほしくなります。
この時期は、心理学では「パワーストラグル」と呼ばれます。
簡単に言えば、二人のやり方がぶつかる時期です。
そして、喧嘩が増えるのもこの時期です。
喧嘩が減ったから、関係が良くなったとは限らない
何度も同じことで喧嘩をしていると、だんだん疲れてきます。
言っても変わらない。
説明してもわかってもらえない。
また話したところで、どうせ同じことになる。
そんな経験が積み重なると、「もういい」と思うようになります。
そして、相手に求めることをやめていきます。
「どうせこの人はわかってくれない」
「もう期待しない」
「好きにすればいい」
すると、不思議なことに喧嘩は減ることがあります。
言わなければ、ぶつからないからです。
夫は夫で自分のことをする。
妻は妻で自分のことをする。
お互いの生活には必要以上に口を出さない。
家事も仕事も日常生活も、それなりに回っている。
外から見れば、落ち着いた夫婦に見えるかもしれません。
けれど、関係がよくなって喧嘩がなくなったのではなく、わかってもらおうとすることを諦めたから、喧嘩をしなくなったという場合もあるのです。
心理学では、こうした時期を「デッドゾーン」と呼ぶことがあります。
「もういい」が増えると、話すこともなくなっていく
デッドゾーンに入ったからといって、夫婦がまったく話さなくなるわけではありません。
必要な会話はします。
「明日何時?」
「ご飯は?」
「子どもの予定は?」
「これ払っておいて」
生活を回すための会話です。
けれど、
「最近どう?」
「仕事、大変?」
「今、何が楽しい?」
「何かやってみたいことある?」
そんな会話は少なくなっていきます。
なぜなら、相手のことを知ろうとすることそのものを諦めていることがあるからです。
以前、聞いたけれど話してくれなかった。
こちらが話しても興味を持ってもらえなかった。
悩みを話したら、「そんなこと気にしすぎ」と言われた。
わかってほしくて話したのに、正論で返された。
一緒にやってほしいと言ったのに、面倒そうな顔をされた。
こうしたことが何度も続けば、「もう話さなくていいか」となるのも不思議ではありません。
だから、「夫婦で話すことがない」というとき、本当に話題がないとは限らないのです。
話すことを諦めてきた結果、話すことがなくなっていることがあるのです。
「もっと会話しましょう」だけでは変わらないこともある
夫婦の会話を増やす方法として、
共通の趣味を持つ。
一緒に出かける。
今日あった出来事を話す。
そういった方法が紹介されることがあります。
もちろん、それをきっかけに関係が変わる夫婦もいます。
ただ、二人の間に「話しても無駄」という気持ちが積み重なっている場合、話題だけを増やしても長続きしないことがあります。
旅行に行っても話すことがない。
二人で食事をしても、結局スマホを見る。
「今日は何があった?」と聞いてみても、「別に」で終わる。
こうなると、「やっぱりこの人とは話せない」と、さらに諦めが深くなることもあります。
そんなときは、会話の方法を考える前に、いつから話さなくなったのだろうと振り返ってみてもいいのだと思います。
私は何を話していたのか。
何をわかってほしかったのか。
どんな反応をされたときに、話すのをやめたのか。
何度期待して、何度がっかりしたのか。
「話すことがなくなった」には、二人の間で起きていた何かがあります。
もう一度相手に興味を持つのは、意外と怖い
デッドゾーンを抜けていくためには、もう一度相手に興味を持つことが必要になってきます。
「この人は、今どんなことを考えているんだろう」
「どうして、この人はこういう反応をするんだろう」
「最近、何が楽しいんだろう」
そんなふうに、もう一度相手に関心を向ける。
ただ、これは思っているほど簡単ではありません。
なぜなら、相手に興味を持とうとすると、以前傷ついたところにも触れることになるからです。
「また聞いても、どうせ話してくれないかもしれない」
「また自分の気持ちを話して、否定されたら嫌だ」
「期待して、またがっかりしたくない」
そんな恐れが出てきます。
だから私たちは、「もうどうでもいい」と思ってしまいがちです。
そう思っていた方が楽だったりするのです。
期待しなければ、傷つかなくて済むからです。
でも、その「もういい」が、自分を守ってくれた一方で、二人の間のつながりも切ってしまっていることがあります。
相手を愛するということは、もう一度関心を向けること
「もう一度相手を愛する」と言うと、
夫を好きにならなければいけない。
嫌だったことを許さなければいけない。
仲良くしなければいけない。
そんなふうに感じる人もいるかもしれません。
けれど、ここで言う「愛する」は、それだけではありません。
たとえば、「この人は、なぜこんなことを言うんだろう」と考えてみること。
相手の気持ちや背景に興味を持つこと。
相手の存在に、もう一度関心を向けること。
それも愛の一つです。
そして同じように、自分にも関心を向けます。
「私はいつから、こんなに諦めるようになったのだろう」
「本当はこの人に何をわかってほしかったのだろう」
「本当は、どんな夫婦でいたかったのだろう」
怒りの奥に、寂しさがあることもあります。
「どうでもいい」と思っていたはずなのに、その奥には、
「もっと一緒にいたかった」
「もっと話したかった」
「私のことを知ろうとしてほしかった」
という気持ちが残っていることもあります。
そこに触れることは、心が痛むことでもあります。
でも、その気持ちを感じられるようになることが、止まっていた関係をもう一度動かしていくことにつながります。
デッドゾーンを越えると、もう一度ロマンス期がやってくる
デッドゾーンは、夫婦関係の終わりとは限りません。
ここを乗り越えていくと、もう一度ロマンス期がやってくると言われています。
ただし、最初のロマンス期とは中身が違います。
最初の頃は、まだ相手を十分に知りません。
魅力的なところがよく見え、違いも新鮮に感じられます。
でも、二度目のロマンス期では、
相手の嫌なところも知っている。
弱いところも知っている。
自分が傷ついたこともある。
自分も相手を傷つけたことがある。
それでも相手との違いを理解し、弱さを見せ合い、相手の素晴らしさも受け取る。
そんな関係になっていきます。
だから二度目のロマンス期は、恋愛初期の「ラブラブ」とは違う深さがあります。
知らなかったから好きだったのではありません。
知ったうえで、もう一度相手を選ぶ。
そんなつながりです。
夫婦で話すことがなくなったときに、見てみたいこと
「夫婦で話すことがない」と感じたら、無理に話題を探す前に、少しだけ二人の間を振り返ってみてください。
いつから、話さなくなったでしょうか。
その前に、何があったでしょうか。
何度伝えてもわかってもらえなかったことはないでしょうか。
もう期待しないと決めたことはないでしょうか。
そして、本当は何をわかってほしかったのでしょうか。
もしかすると、会話がなくなったところには、二人の間で長い時間をかけて積み重なったものがあるのかもしれません。
だから、会話だけを何とかしようとしなくてもいいのです。
二人の間で何が起きてきたのかを見ること。
そして今、「この人に、もう一度関心を向けたいだろうか」と自分に聞いてみる。
そこから、これからの夫婦関係が見えてくることがあります。
夫婦で話すことがない状態が長く続いていると、「いつからこうなったのか」「自分が何を諦めたのか」もわからなくなることがあります。
カウンセリングでは、二人の間でどんなやり取りが繰り返され、どこで傷つき、何を諦めるようになったのか。
そこを整理しながら、もう一度この人との関係を作っていきたいのか、それともこれから別の関わり方を選びたいのかを考えていくことができます。
夫婦関係は、一人が今までとは違う見方や関わり方を持つことで、二人の間の流れが変わることもあります。
「夫婦で話すことがない」という状態を、ただ「長年一緒にいるから仕方がない」で終わらせず、これからの二人を考えるきっかけにしてもいいのだと思います。
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