投影に気づいたその先へ|今、この人との間で何が起きている?

感情・心のしくみ

「この人にイライラするのは、父親を投影しているからかもしれない」

「夫が黙ると不安になるのは、子どもの頃の経験が影響しているんだ」

心理学を学んだり、カウンセリングを受けたりしていると、そんなふうに自分の反応と過去の経験がつながることがあります。

「ああ、だから私はこの人にこんなに反応するのか」

とわかると、それまで理解できなかった自分の気持ちに説明がつくこともあります。

ただ、そこで一つ気をつけたいことがあります。

「これは投影だから」とわかったところで、今の相手との関係を見なくなってしまうことです。

過去を見ることは大切です。

でも、今、目の前にいる人は過去の誰かではありません。

投影に気づいたその先で、

「では、今この人との間では、本当は何が起きているんだろう?」

と見てみることも必要です。

この記事のポイント

私たちは、人と出会うと瞬時にさまざまなものを投影します。

過去に出会った人。

過去に感じた怖さや寂しさ。

「人はこういうものだ」という思い。

それらを通して、目の前の相手を見ています。

だから、今の人間関係を理解するために過去を見ることはとても大切です。

ただし、人との間で起きていることには、

過去が映し出されている部分だけでなく、今この関係で実際に起きていることや、この出会いによって初めて生まれているものもあります。

投影を理解したあとに、もう一度「今」を見る。

今回は、そんな視点について考えてみたいと思います。

人は、目の前の相手だけを見ているわけではない

私たちは、「今の人をそのまま見ている」と思っています。

でも実際には、過去の経験を通して相手を見ています。

たとえば、子どもの頃、父親が怒ると黙り込む人だったとします。

父親が黙る。

何を考えているかわからない。

このあと怒鳴られるかもしれない。

そんな経験を何度もしていると、「男性が黙る」ということに怖さが結びつくことがあります。

大人になって結婚し、夫が考え事をして黙っている。

夫はただ疲れているだけかもしれません。

でもこちらでは、

「怒ってる?」

「私、何かした?」

「何か言わなきゃ」

と強い反応が出る。

目の前にいるのは夫ですが、そこには過去の父親との関係や、当時の怖さも映し出されています。

これが投影です。

投影に気づくと、反応の理由がわかる

投影に気づく意味は大きいです。

それまでは、

「どうして私はこんなに夫の顔色が気になるんだろう」

「どうして、黙っているだけなのに怖いんだろう」

と思っていたものが、

「今だけの問題ではなかったんだ」

と理解できるからです。

すると、

「夫が黙った=私が何か悪いことをした」

という見方だけではなく、

「私は昔の怖さにも反応しているのかもしれない」

という見方ができます。

過去と現在を少し分けて見られるようになる。

これは、人間関係を変えていくうえでとても大切なことです。

でも、ここで終わりではありません。

「これは投影だから」で、今を見なくなることもある

心理学を知っている人ほど、何かが起きたときに、

「これは私の投影だ」

と考えることがあります。

それ自体は間違いではありません。

ただ、それによって、

今、本当に起きていることまで自分の心理の問題にしてしまう

ことがあります。

たとえば、

「夫を信じられないのは、昔裏切られた経験を投影しているから」

と思っている。

でも、今の夫も実際に嘘をついているのであれば、信じられない理由は過去だけではありません。

職場で上司の前になると萎縮する。

確かに、厳しかった父親を上司に投影している部分はあるかもしれない。

でも、その上司が実際に人を威圧するような話し方をしているなら、それも今起きていることです。

「私がもっと投影を手放せば気にならなくなる」

と、自分の中だけを見続けると、今の関係にある問題を見落としてしまうことがあります。

投影を見ることと、今を見ることは両立する

ここは、どちらか一方を選ぶ話ではありません。

「過去の投影なのか」

それとも、

「今の相手が問題なのか」

という二択ではないのです。

両方あることもあります。

たとえば夫が不機嫌そうに見えたとき、

過去の父親への怖さが反応して、実際以上に不安が大きくなっているかもしれない。

その一方で、夫自身も本当に機嫌が悪く、こちらに冷たい態度を取っているのかもしれない。

そこで、

「これは全部私の投影」

でも、

「全部夫のせい」

でもなく、

「今、この人と私の間で何が起きている?」

と見てみる。

この視点を持つことで、過去と現在の両方を見ることができます。

私は、人と人の「あわい」には、何らかの感情があると考えています。

安心や信頼、喜びのような感情もあれば、怖れ、怒り、悲しみ、罪悪感のような感情もあります。

そして、その感情が今この相手との関係の中で生まれていることもあれば、過去の経験から持ち込まれていることもあります。

その両方が重なりながら、私たちは目の前の人と関わっていることがあります。

今の関係を見ると、「自分がどうなっているか」も見えてくる

今を見るというのは、相手を観察することだけではありません。

その人との間で、自分がどうなっているのかを見ることでもあります。

この人が黙ると、私は急いで話しかける。

この人が困っていると、頼まれていなくても何とかしてあげたくなる。

この人の前では、やたらと自分を正当化したくなる。

この人には、どうしても認めてもらいたくなる。

そこには過去の影響があるかもしれません。

でも同時に、今の二人の関わりの中で、そのやり取りが繰り返されていることもあります。

自分が先回りする。

相手は任せる。

さらに自分が頑張る。

相手はますます動かなくなる。

そうやって、二人の間に一つの関わり方ができていくことがあります。

だから見るのは、

「私は何を投影しているのだろう」

だけではありません。

「その投影も含めて、この人との間で私は何を感じ、どう動いているのだろう」

というところまで見ていきます。

この出会いによって初めて生まれるものもある

もう一つ忘れたくないのが、

過去にはなかったものが、今の関係から生まれることもある

ということです。

たとえば、これまで誰にも頼れなかった人が、

「この人には、頼ってみたい」

と思う。

過去に誰かへ甘えられなかったことが影響している部分もあるかもしれません。

でも、それだけではなく、

目の前の人が、実際に頼っても大丈夫だと思える関わり方をしてくれている

ということもあります。

ある人に出会って、初めて自分の意見を言えるようになった。

一人では挑戦しなかったことを、

「一緒ならやってみたい」

と思った。

今まで気づかなかった自分の良さを、その人との関係の中で知った。

それは、過去が繰り返されているだけではありません。

その人と出会ったからこそ、新しく生まれたものです。

「あわい」で見るのは、過去・今・新しく生まれるもの

以前の記事で、私は自分と何かの「間(あわい)」について書きました。

【誰かと出会って、何かが起こる|人と人の「間(あわい)」に生まれるもの】

人と人のあわいには、

過去を映し出すもの

があります。

投影や過去の感情、これまでの関係の中で身につけた反応などです。

そして、

今を映し出すもの

があります。

目の前の人が実際にどう関わっているのか。

自分はその人との間で今、何を感じ、どう振る舞っているのか。

さらに、

新しく生まれるもの

があります。

その人と出会ったことで、初めて感じたこと。

初めて受け取れたもの。

初めて選べたこと。

この三つが重なりながら、私たちは人と関わっています。

投影に気づいたら、まず絡まっているものを「ほどく」

「私は父親を夫に投影していたんだ」

とわかったとします。

でも、そのとき夫との間にあるのは、父親への怖さだけとは限りません。

父親が黙ったときに感じていた怖さ。

「男性を怒らせてはいけない」という思い。

今の夫が話をしてくれないことへの寂しさ。

本当はもっと話したいという気持ち。

自分ばかり気をつかっていることへの怒り。

いろいろなものが重なっていることがあります。

そうすると、

「これは父親への投影だから」

だけでは、今の夫との間で何が起きているのかは十分に見えてきません。

だから、

「これは昔の父に感じていた怖さ」

「これは今の夫に感じている寂しさ」

「私は『相手が黙ったら私が何とかしなければ』と思っていた」

というように、絡まっているものを少しずつ見ていきます。

過去を消すわけでも、感情をなくすわけでもありません。

何が過去から来たものなのか。
何が今感じていることなのか。
自分がどんな思いを持って関わっているのか。

まずは、一つになっていたものを少しずつ見分けていきます。

そして、そこに怖さや寂しさ、怒りなどの感情があることに気づいたら、必要に応じて、その感情にも少し触れていきます。

「私はこんなに怖かったんだ」

「本当は寂しかったんだ」

「ずっと我慢して怒っていたんだ」

そんなふうに、これまで自分の中に残っていた感情に気づき、少し感じたり、緩めたりしていくことで、今の相手との間に持ち込んでいた反応が変化していくことがあります。

私は、こうしてあわいに絡まっている感情や思いを少しずつほどいていくことも大切だと考えています。

ほどいたあと、今の相手ともう一度「むすぶ」

絡まっていたものがほどけてくると、

「夫が黙る=父親が怒っているときと同じ」

という見方だけではなくなってきます。

そこで初めて、

「では、今ここにいる夫は、どんな人なんだろう」

と改めて見ることができます。

過去の人との関係も、今の自分から見直してみる。

「あの頃の私は怖かった」

「父に怒られないように、いつも様子を見ていた」

「本当は安心させてほしかった」

と、当時の自分の気持ちを理解していく。

これは、父親を許したり、現実に関係を修復したりするという意味ではありません。

自分の中に残っている過去との関係を、今の自分から見直していくということです。

そして、

「今の夫は父親ではない」

「今の私は、あの頃の子どもではない」

という今の関係に戻る。

そのうえで、

「この人とはどう話したいんだろう」

「私はこの人と、どんな関係を作りたいんだろう」

と改めて関わってみる。

私はこれを、

今の自分から関係をむすび直す

と考えています。

むすび直すと、違うものが生まれることがある

たとえば、夫が黙ったとき。

これまでは怖くなり、

「怒ってる?」

「私、何かした?」

と夫の機嫌を取るように聞いていた。

でも、自分の中で何が起きているのかわかってくると、

「私は黙られると不安になるんだ」

と気づけるようになる。

そして、

「何か考えてる?」

と、今の夫に対して聞いてみる。

同じように声をかけていても、その意味は違います。

父親を怒らせないためではなく、

今ここにいる夫を知るために話しかけている。

すると夫から、

「仕事のことを考えていただけだよ」

と言われるかもしれない。

あるいは、

「実はさっきのことで少し腹が立っている」

と言われるかもしれない。

どちらであっても、過去の父親ではなく、今の夫との関係がそこから始まります。

その関わりの中で、

安心。

信頼。

「ちゃんと聞いても大丈夫だった」

という感覚。

これまでとは違うものが生まれることがあります。

そこで起きた新しい体験を受け取る

ここも大切です。

たとえば、夫に聞いてみたら、

「怒ってないよ」

と言われた。

でも、

「絶対怒ってるはず」

と思い続けていたら、新しい体験は自分の中に入ってきません。

人に頼ったら、

「言ってくれてよかった」

と言ってもらえた。

でも、

「本当は迷惑だったはず」

と思えば、やはり昔と同じ世界のままです。

だから、

今この関係で実際に起きたことを受け取る。

それも、過去の反応から少しずつ離れていくためには大切です。

そして受け取るものは、相手の反応だけではありません。

「私は本当は不安だった」

「私はこの人ともっと話したかった」

「私には、自分の気持ちを伝える力もある」

という、自分の感情や自分自身の価値に気づくこともあります。

投影に気づくのは、今を生きるため

過去を見るのは、過去に戻るためではありません。

投影を知るのも、

「私はこんな過去があるから仕方がない」

と説明をつけるためだけではありません。

過去から持ってきたものと、今ここで起きていることを見分け、今の人と改めて関わるためです。

そして、過去から残っている感情があるなら、そこに気づき、必要に応じて少しほどいていく。

そうすることで、昔と同じ反応だけではなく、今の自分から目の前の人と関われる余地が生まれてきます。

そして、その関わりの中で新しいものが生まれることがあります。

頼っても嫌われなかった。

本音を言っても関係が壊れなかった。

聞いてみたら、自分が想像していたこととは違った。

自分の意見を伝えたことで、相手も本音を話してくれた。

今まで知らなかった自分が出てきた。

そこで起きたことを受け取ると、

「今度も少し聞いてみよう」

「次は自分の気持ちを伝えてみよう」

という新しい選択が生まれることもあります。

投影に気づくことは、ゴールではありません。

気づきは、今までとは違う関わり方を始めるための入口です。

気づいたその先で、

「今、この人との間では何が起きているんだろう」

と見てみる。

過去と今が絡まっているなら、少しほどいてみる。

そして、今の自分から目の前の人ともう一度関わってみる。

そこで起きたことを受け取ってみる。

そんなふうに、自分の心や人との間で起きていることに少しずつ興味を持てるようになると、同じ出来事が起きても、すぐに昔と同じ反応だけを選ばなくなることがあります。

過去を知ったうえで、今ここにいる人を見る。

そこから、これまでとは違う関係が始まることがあります。

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