「前向きに考えよう」
そう言われた瞬間に、
「いや、それができたら苦労していない」
と思うことはありませんか?
落ち込んでいる時に、周りから明るい言葉をかけられることがあります。
「元気出して」
「考えすぎだよ」
「気持ちの持ちようだよ」
言っている側に悪気はないのだと思います。
励まそうとしてくれているのも、わかる。
でも、受け取る側の心がついてこない日があります。
むしろ、その明るさがまぶしすぎて、余計にしんどくなることもあります。
自分で自分を励まそうとする時も同じです。
「よし、ポジティブに考えよう」
「気持ちを切り替えよう」
「こんなことで落ち込んでいても仕方ない」
そう思っても、心の奥では、
「いや、今は無理」
とつぶやいている。
頭ではわかっているのに、気持ちが動かない。
そういう時は、誰にでもあります。
この記事では、前向きになれない時に心の中で何が起きているのか、そして落ち込む自分を責めすぎないために何ができるのかを解説していきます。
前向きになれない時、心は止まっているわけではない
前向きになれない時、私たちはつい自分を責めてしまいます。
「いつまでも落ち込んでいてはいけない」
「早く切り替えないと」
「こんな自分ではダメだ」
そう思うほど、ますます苦しくなることがあります。
でも、前向きになれない時の心は、ただ止まっているわけではありません。
むしろ、何かを確認している途中なのかもしれません。
たとえば、暗い廊下を歩く時を想像してみてください。
先がよく見えない。
足元もわからない。
何かにぶつかるかもしれない。
そんな時、人は自然と足を止めます。
それは、臆病だからではありません。
危ないものがないかを確認しているからです。
心も似ています。
傷ついた時。
疲れがたまっている時。
人間関係で嫌なことがあった時。
これ以上進んでも平気なのか。
また傷つかないのか。
今、動いてもいいのか。
心の中で、そういう確認が起きていることがあります。
だから、すぐに明るくなれないのです。
すぐにやる気が戻らないのです。
それは、心が慎重に様子を見ている状態かもしれません。
落ち込むことにも意味がある
落ち込むことは、悪いことのように扱われがちです。
でも、落ち込みは心からのサインでもあります。
「少し立ち止まって」
「今は無理に動かないで」
「これ以上、自分を追い立てないで」
そんなメッセージとして出てくることがあります。
たとえば、不安は未来に備えようとする働きです。
怒りは、これ以上踏み込まれたくないというサインになることがあります。
悲しみは、失ったものや傷ついた気持ちを受け止める時間を求めているのかもしれません。
どの感情も、ただ邪魔をしているわけではありません。
何かを知らせようとしているのです。
ところが、私たちはつい、
「落ち込んではいけない」
「早く元気にならなきゃ」
「こんなことで止まっている場合じゃない」
と思ってしまいます。
特に、普段から頑張ることが当たり前になっている人ほど、立ち止まることに抵抗があります。
何もできない自分を見るのが怖い。
周りに置いていかれるような気がする。
ちゃんとしていない自分を許せない。
だから、落ち込んでいる自分にまで厳しくなってしまうのです。
でも、心も体と同じです。
疲れている時に、さらに走れと言われても動けません。
一度止まって、呼吸を整える時間が必要な時もあります。
ポジティブな言葉がつらく感じる理由
落ち込んでいる時に、ポジティブな言葉を聞くとつらくなることがあります。
それは、その言葉が間違っているからではありません。
今の自分の状態と、その言葉の距離が遠すぎるからです。
たとえば、心がかなり沈んでいる時に、
「きっといいことあるよ」
「考え方を変えよう」
「笑っていれば何とかなる」
と言われても、すぐには受け取れません。
むしろ、
「そんなふうに思えない私はダメなのか」
「明るくできない私が悪いのか」
と、自分を責める方向に向かってしまうことがあります。
これは、元気な言葉が悪いのではなく、今の心に合っていないのです。
お腹が痛い時に、いきなり焼肉を出されても食べられないようなものです。
焼肉が悪いわけではありません。
今の胃には重い。
それだけです。
心も同じです。
元気な言葉を受け取れる時もあります。
でも、今はまだ重く感じる時もあります。
その時は、無理に受け取らなくてもいいのです。
まずは、
「今の私は、明るい言葉を受け取る余裕がないんだな」
と気づくだけでも十分です。
「元気になる」より「自分に戻る」と考えてみる
落ち込んだ時、多くの人は「早く元気にならなきゃ」と思います。
でも、元気になることを急ぐほど、心は置いていかれることがあります。
それよりも、
「元気になる」
ではなく、
「自分に戻る」
と考えてみると、少し楽になるかもしれません。
自分に戻るとは、無理に明るく振る舞うことではありません。
悲しい時に、悲しいと認める。
疲れている時に、疲れていると気づく。
怒っている時に、怒っている自分を否定しない。
何もしたくない時に、「今は動けないんだな」と見る。
そうやって、今の自分の状態を確かめることです。
スマホの充電が少なくなった時、無理にアプリを動かし続けても、動作は重くなります。
一度充電するしかありません。
人の心も、エネルギーが減っている時があります。
そんな時に必要なのは、気合いではなく、消耗していることに気づくことです。
そして、少しずつ戻ってくるのを待つことです。
落ち込みから戻る力は、落ち込まないことではない
心が強い人というと、落ち込まない人を想像するかもしれません。
でも実際には、まったく落ち込まない人になる必要はありません。
人は傷つけば落ち込みます。
大切にしていたことがうまくいかなければ、悲しくなります。
期待していたことが崩れたら、やる気がなくなることもあります。
それは人間として自然な反応です。
大切なのは、落ち込まないことではなく、少しずつ戻ってこられることです。
落ちたら、少し休む。
泣きたい時は泣く。
話せる人がいるなら話す。
何も言葉にならないなら、ただ横になる。
そして、ほんの少し余裕が戻ってきたら、できることを一つだけやる。
それが、回復していくということです。
落ち込んだその日に、すぐ元通りにならなくてもかまいません。
昨日より少し息がしやすい。
さっきより少し体が動く。
今日はお茶を飲めた。
返信はできなかったけれど、起き上がれた。
それくらいの変化でも、十分に戻り始めていることがあります。
落ち込んだ時にやりがちなこと
落ち込んでいる時、人は自分をさらに追い込む行動をしてしまうことがあります。
たとえば、SNSを見続ける。
誰かの楽しそうな投稿や、順調そうな報告を見て、
「それに比べて私は」
と落ち込む。
過去の失敗を何度も思い出す。
「あの時、ああしていれば」
「どうしてあんなことを言ったんだろう」
と頭の中で反省会が終わらない。
さらに、自分に厳しい言葉をかける。
「またこうなった」
「何も変わっていない」
「私は本当にダメだ」
こうなると、落ち込みそのものより、自分への責め言葉で傷が深くなっていきます。
落ち込んだ時に必要なのは、これ以上自分に追い打ちをかけないことです。
心がすでに転んでいる時に、説教まで始めると、さすがにしんどいです。
転んだ自分に向かって、
「なんで転んだの?」
「もっと上手に歩けなかったの?」
「ほら、早く立って」
と言い続けるようなものです。
それでは立ち上がる前に、ますます疲れてしまいます。
「自分に優しくする」が難しい人へ
落ち込んだ時は、自分に優しくしましょう。
そう言われても、それが難しい人もいます。
自分に優しくするとは、甘やかすことではないか。
怠けることではないか。
もっとダメになるのではないか。
そう感じる人もいるかもしれません。
でも、自分に優しくするとは、何でも許して好き勝手にすることではありません。
今の自分の状態を、少し丁寧に扱うことです。
たとえば、
「今日はかなり疲れているな」
「今は人と比べるとしんどくなるな」
「この状態で無理に決めるのはきついな」
「今日は早めに寝よう」
「返信は明日にしよう」
このように、自分の状態を見て、負担を少し減らすことです。
誰かに対してなら、自然にできることかもしれません。
疲れている友人に、
「もっと頑張りなよ」
とは言わないと思います。
「今日は休んだら?」
「それはしんどかったね」
「今すぐ答えを出さなくてもいいんじゃない?」
そう言うかもしれません。
それを、自分にも少し向けてみる。
最初はぎこちなくてもかまいません。
慣れていないだけです。
前向きになれない時にできる小さなこと
前向きになれない時は、大きく変わろうとしなくてもいいのです。
まずは、落ち込みを少しだけ軽くする行動から始めます。
体を先に休ませる
心が疲れている時、体も疲れていることが多いです。
寝不足。
食事が乱れている。
ずっと座りっぱなし。
緊張が抜けない。
こういう時に、気持ちだけ切り替えようとしても難しいことがあります。
まずは、体を休ませる。
温かいものを飲む。
横になる。
深呼吸をする。
お風呂に入る。
少し歩く。
気持ちを変えようとする前に、体の負担を少し下げるのです。
SNSや情報から少し離れる
落ち込んでいる時は、いつもより人と比べやすくなります。
そんな時にSNSを見ると、他人の元気そうな部分だけが目に入ります。
そして、
「みんなちゃんとしているのに」
「私だけ止まっている」
と感じやすくなります。
そういう日は、少し離れてもいいのです。
見ない時間を作る。
通知を切る。
寝る前には開かない。
これだけでも、心の中に入ってくる刺激を減らせます。
できたことを数える
落ち込んでいる時は、できなかったことばかりが目につきます。
でも、できたことも少しはあるはずです。
朝起きた。
水を飲んだ。
洗濯物を一つ片づけた。
人にきつく当たらずに済んだ。
仕事に行った。
仕事には行けなかったけれど、連絡はした。
これくらいでいいのです。
落ち込んでいる時の「できた」は、元気な時の「できた」と同じ基準で見なくていいのです。
エネルギーが少ない中でできたことは、それだけで十分です。
言葉にして外に出す
頭の中だけで考えていると、落ち込みはぐるぐるしやすくなります。
紙に書く。
信頼できる人に話す。
カウンセリングで整理する。
どんな形でも、気持ちを外に出すと、自分の中で絡まっていたものが少し見えやすくなります。
きれいな文章にする必要はありません。
「しんどい」
「悔しい」
「疲れた」
「何が嫌なのかわからない」
それくらいでも、外に出す意味があります。
無理に明るくならなくても、戻っていける
落ち込んでいる時に、いきなり明るくなる必要はありません。
気持ちが沈んでいる時は、まず沈んでいる自分を見てあげること。
そして、少しずつ戻ってくるための余白を作ること。
それで十分です。
人は、いつも元気ではいられません。
泣く日もあります。
動けない日もあります。
人に会いたくない日もあります。
何をしても楽しく感じられない日もあります。
そういう日があるからといって、自分がダメになったわけではありません。
今は、心のエネルギーが少なくなっているだけかもしれません。
充電が必要な時に、無理に走らせようとしないこと。
そのほうが、結果的には戻りやすくなることがあります。
まとめ
前向きになれない時に、無理に前向きになろうとすると、余計につらくなることがあります。
ポジティブな言葉が響かない日があっても、それはおかしなことではありません。
心が傷ついていたり、疲れていたり、これ以上進んでいいのかを確認している時は、すぐに明るくなれないことがあります。
落ち込むことにも、意味があります。
立ち止まることにも、必要な時があります。
大切なのは、落ち込まない人になることではありません。
落ち込んだ時に、自分を責めすぎず、少しずつ自分に戻ってこられることです。
元気を出す前に、まずは今の自分の状態を見てあげる。
疲れているなら休む。
比べすぎているなら、少し距離を取る。
頭の中でぐるぐるしているなら、言葉にして外に出す。
そんな小さなことからでいいのです。
前向きになれない日があっても、あなたが止まってしまったわけではありません。
心が、今のあなたに必要なペースを探しているのかもしれません。




