「そんな言い方をされて傷ついた」
そう伝えたとき、夫から返ってきたのが、
「そんなつもりじゃなかった」
「悪気はなかった」
「そういう意味で言ったんじゃない」
という言葉だった。
言われた妻としては、
「そんなつもりだったかどうかを聞いているんじゃない」
「私は傷ついたって言ってるのに」
と、余計に腹が立つことがあります。
夫には、本当に傷つけるつもりなどなかったのかもしれません。
それでも妻の気持ちは収まらない。
ここには、夫婦それぞれが同じ出来事について話しているようで、実は違うものを見ているというすれ違いがあります。
「そんなつもりじゃなかった」は、夫にとっては説明なのかもしれない
妻から「傷ついた」と言われたとき、夫が真っ先に考えるのが、
「でも、傷つけようと思って言ったわけじゃない」
「そういう意味で言ったわけじゃない」
ということだったりします。
夫としては、自分が何を考えてその言葉を言ったのかを説明しているのでしょう。
誤解されているなら、その誤解を解けばいい。
そんな感覚なのかもしれません。
一般に、男性は問題の原因や結論、どうすれば解決するかを優先しやすく、女性は気持ちを共有することや、そこに至るまでの過程を大切にしやすい傾向があります。
もちろん個人差はあります。
ただ、この違いが夫婦の会話に表れることがあるのです。
妻は、「私がどう感じたのかをわかってほしい」と話している。
夫は、「自分にはそんな意図はなかった」と話している。
どちらも自分の中では話が通っているのですが、二人が話している場所がずれているのです。
「僕は悪くない」と自分を守っていることもある
「そんなつもりじゃなかった」という言葉には、もう一つ別の意味が含まれていることがあります。
それは、「僕は悪くない」という気持ちです。
妻が「傷ついた」と言っただけでも、夫がそれを「責められた」「自分が悪いと言われた」と受け取ることがあります。
すると、その瞬間から会話が、「妻の気持ちを知る時間」というより、「自分が悪い人間ではないと証明する時間」になってしまいます。
男性の中には、できなかったことや負けることを強く避けたい人もいます。
「自分が間違っていた」
「自分のせいで妻を傷つけた」
と認めることが、自分の負けのように感じられる人もいます。
そうなると、妻の言葉を受け止めるより、
「いや、でも」
「そんなつもりじゃない」
「そこまで言われることじゃない」
と、自分を守ろうとします。
妻が欲しいのは、本当に「謝罪」だけなのだろうか
妻は「謝ってほしい」と思っています。
その気持ちは本当でしょう。
「傷つけたなら、まず謝ってよ」と思うのも自然なことです。
ところが夫が、「ごめん」と謝ったとしても、
「本当に悪いと思ってる?」
「何が悪かったかわかってる?」
「言えば済むと思ってない?」
と、まだ気持ちが収まらないことがあります。
これは、意識的には「謝ってほしい」と思っていても、その奥では、「私がどんな気持ちだったのかをわかってほしい」という思いがあることが多いからです。
「ごめん」という言葉だけでは足りないと感じるとき、本当に欲しかったのは、自分がどう感じたのかを相手にもわかってもらうことなのかもしれません。
「それは嫌だったよね」
「そんなふうに感じたんだね」
「そこまで傷ついていたとは気づかなかった」
そんな言葉があって初めて、「わかってもらえた」と感じることがあります。
女性の気持ちがよくわからない男性もいる
もちろん男性だから女性の気持ちがわからない、と単純に分けられるものではありません。
ただ、女性との関わりをどのくらい経験してきたかによって、違いが出ることはあります。
たとえば、姉妹のいる家庭で育った男性は、日常的に女性の話し方や感情の動きに触れてきたかもしれません。
男子校で男性ばかりの環境にいた人と、共学で日常的に女性と関わってきた人でも、経験してきた会話の種類は違います。
だからといって、姉妹がいるから女性心理を理解できる、共学だから夫婦関係がうまくいく、ということではありません。
ただ、
「結論を出すことより、話を聞いてほしいときがある」
「正しい説明より、まず気持ちをわかってほしいことがある」
ということを、経験から知っている男性はいます。
こういう男性は、女性とのコミュニケーションがうまいこともあります。
いわゆる「女性にモテる男性」の中には、見た目や話術だけではなく、女性が今どんな反応を求めているのかを自然にわかっている人もいます。
妻が強く言うほど、夫は「何をしても無駄」と感じることがある
妻としては、夫がわかってくれないから、もっと説明したくなります。
「前にも同じことがあったよね」
「あのときもそうだった」
「なんでいつもそうなの?」
「あなたは全然わかってくれない」
これまで我慢してきたことがあれば、過去のことまで出てくるのも無理はありません。
けれど夫側では、
「昔のことまで言われても、もう変えられない」
「何を言ってもまた責められる」
「結局、俺が全部悪いという話になる」
と感じてしまいます。
そして、「何をしても無駄だ」という感覚になっていきます。
すると、黙る。
話を終わらせる。
キレる。
何もしなくなる。
妻にはそれが、「また逃げた」「私の気持ちなんてどうでもいいんだ」と見えます。
だから、さらに強く言いたくなる。
妻は「わかってほしい」から強く言い、夫は「これ以上責められたくない」から、ますます話さなくなる。
その繰り返しが続くと、本来伝えたかった気持ちから、どんどん離れていってしまいます。
「あなたはわかってくれない」では、何をすればいいかわからないこともある
ここで、妻の側にもできることがあります。
それは、夫を責めないように我慢することではありません。
何をわかってほしいのか、何をしてほしいのかを、できるだけ具体的にすることです。
「あなたは全然わかってくれない」と言われても、夫には、「何をわかればいいんだろう」となることがあります。
たとえば、
「私が嫌だったと言ったときは、すぐに理由を説明するのではなく、まず話を聞いてほしい」
「次から同じようなことがあったら、『嫌だったんだね』と言ってもらえるとうれしい」
と伝える。
これなら、夫にもこれから何をすればいいのかがわかりやすくなります。
「私が言ってほしいと言ったから言っているだけでしょ」と思えば、すぐには「わかってもらえた」と感じられないかもしれません。
でも、今までやってこなかったことなら、最初はうまくできなくても当然です。
こうしたやり取りも、二人の間で練習していく必要があるのだと思います。
過去の出来事を並べて、「前もそうだった」と伝えたくなることもあるでしょう。
実際、前にも同じことがあったのかもしれません。
ただ、一概には言えませんが、男性の中には、もう変えられない過去のことを繰り返し指摘されると、「今さらどうすればいいんだ」と反発したり、何をしても無駄だと感じたりする人もいます。
妻が本当に望んでいるのが、これからの夫婦関係を変えることなら、過去を繰り返し確認するよりも、「これからはこうしてほしい」と伝えた方が、二人の会話が次につながる可能性があります。
わかっていても、すぐには変わらない
とはいえ、「じゃあ、これからはこうしてね」と一度伝えれば夫婦関係が変わるほど、簡単なことばかりではありません。
何年、何十年と続いてきたやり取りであれば、それが二人にとっていつもの関係になっています。
妻が強く言う。
夫が守りに入る。
夫が黙る。
妻がさらに怒る。
この流れを何度も繰り返してきたなら、頭で理解しただけですぐに変えるのは難しいでしょう。
人は「変われ」と言われると反発したくなります。
それは男性に限りません。
今までとは違う関わり方をすることには、恐れも出てきます。
「どうして私が?」と思うこともある
ここまで読むと、「結局、私が伝え方を変えなきゃいけないの?」と思うかもしれません。
「悪気がなかったとしても、傷つけたのは夫なのに」と悔しく感じることもあるでしょう。
その気持ちまで押さえ込む必要はありません。
ただ、相手を変えようとしても、相手には相手の考え方やこれまでのやり方があります。
そこを力づくで変えようとすると、反発が強くなることもあります。
「どうして私が変わらなきゃいけないの?」と思うこともあるでしょう。
それでも、この夫婦関係を今よりよくしたいと思うなら、気づいた側から、これまでとは違う関わり方を選ぶことはできます。
それは、妻が悪いから変わるという意味ではありません。
「私は本当は何をわかってほしかったんだろう」
「謝ってほしいと言っているけど、何を受け取れたら気持ちが落ち着くのだろう」
「夫には、どう伝えれば届きやすいのだろう」
そこを見ていくことで、同じ言い合いを繰り返す以外の関わり方が見えてくることがあります。
まとめ|「そんなつもりじゃなかった」の後に、何を話せるか
「そんなつもりじゃなかった」という言葉は、夫にとっては説明かもしれません。
けれど妻にとっては、「私が傷ついたことを否定された」ように感じることがあります。
夫は意図を話し、妻は気持ちをわかってほしい。
その違いを知らないまま話していると、妻はますます強く伝え、夫はますます守りに入り、二人とも「どうしてわかってくれないのだろう」と感じることになります。
夫婦のやり取りが長い間同じことを繰り返しているなら、「これからはこうしてほしい」と具体的に伝えることも、関係を変えていく方法の一つです。
けれど、頭ではそうした方がいいとわかっていても、実際には言えないことがあります。
「どうして私からそんなことを言わなきゃいけないの」と腹が立つこともあるでしょう。
自分から歩み寄ったら、男性に負けたような気がする人もいます。
昔から自分ばかりが我慢したり努力したりしてきて、「結局、女性ばかりが損をする」と感じてきた人なら、また自分が工夫することに抵抗を感じるかもしれません。
反対に、父親や男兄弟、これまで付き合った男性が、言葉にしなくても気持ちをわかってくれる人たちだったなら、「どうして夫には、ここまで説明しなければわからないの?」と思うこともあるでしょう。
人によって、言えない理由は違います。
「伝え方を変えればいい」とわかっていても、それができないときには、できないなりの理由があります。
そこを置き去りにして、正しい伝え方だけを覚えようとしても、なかなか続かないことがあります。
カウンセリングでは、「夫にどう言えば伝わるか」だけを考えるわけではありません。
なぜその言い方をすることがこんなにも悔しいのか。
なぜ自分から歩み寄ることに抵抗があるのか。
なぜ「言わなくてもわかってほしい」という思いがこんなに強いのか。
そこには、それまでの夫婦関係だけではなく、家族との関係や過去の恋愛、自分がこれまで人との間でどんな思いをしてきたのかが関係していることもあります。
その理由がわかってくると、「言い方を変えなければ」と自分に言い聞かせるだけだったところから、自分が本当は何を望んでいるのか、これから夫とどんな関係を作っていきたいのかを考えやすくなります。
夫を変えることだけに力を使うのでも、自分だけが我慢するのでもなく、二人の間でこれまでとは違うやり取りを作っていく。
そのために、まず自分の中で何が引っかかっているのかを見ていくことも、大切なのだと思います。



