夫のことが嫌いなわけではない。家族として大切だと思っているし、離婚したいわけでもない。それなのに、夫から触れられると嫌だと感じる。セックスを求められると気が重くなる。以前はそんなことはなかったのに、いつからか夫を性的な相手として見られなくなった。
そんな自分に戸惑う女性は少なくありません。
「夫婦なのに、こんなふうに感じるのはおかしいのかな」「愛情がなくなったということなのかな」「このままでは夫婦としてまずいのでは」と考えることもあるでしょう。
ただ、夫に触れられたくなくなる理由は一つではありません。夫婦の間に積み重なった不満が影響している人もいれば、性的なこと自体に抵抗を感じるようになっている人もいます。子どもが生まれてから、夫を「子どもの父親」として見る感覚が強くなった人もいるでしょう。身体の変化や、これまでの性的な経験が関係していることもあります。
同じ「夫に触れられたくない」という状態でも、その背景は人によって違います。だから、すぐに「夫への愛情がなくなったから」と決めつける必要はありません。
「夫が嫌い」と「触れられたくない」は同じではない
夫に触れられたくないと感じると、「もう夫を愛していないのかもしれない」と考えることがあるかもしれません。
でも、愛情と性的な気持ちは、いつも同じではありません。
夫のことを人として信頼している。困ったときには助け合える。家族として一緒にいたい。それでも、性的に近づかれることには抵抗がある、ということはあります。
反対に、夫婦関係に不満がたくさんあるのに、性的な関係は続いている夫婦もあります。
ですから、「触れられたくない=愛情がない」と単純に結びつけるより、「私はなぜ、性的に近づかれることを嫌だと感じるのだろう」と考えてみる方が、自分の気持ちを理解しやすくなります。
夫を「子どもの父親」として見るようになることがある
子どもが生まれると、夫婦の関係は大きく変わります。
それまでは二人だけの関係だったものに、「父親」「母親」という役割が加わります。夫を見るときにも、「自分の夫」という感覚より、「子どものお父さん」という感覚が強くなることがあります。
家では子どもの話をする。学校や習い事の予定を確認する。休日も家族で過ごす。そんな毎日が続くうちに、夫婦として二人を見る感覚より、家族として見る感覚の方が強くなっていく。
すると、普段は「お父さん」として見ている人から急に性的に近づかれることに、違和感を覚えることになります。
頭では「夫なのだからおかしくない」とわかっていても、気持ちがついてこない。「そういう目で見られること自体がなんとなく嫌」と感じる人もいます。
これは、子どもがいる女性すべてに起きることではありません。夫婦の関係の持ち方や、その人自身が性をどう感じているかによっても違います。ただ、「父親としては大切だけれど、男性として見られなくなった」という感覚があるなら、そこを無視しない方がいいでしょう。
性的なこと自体が嫌になっていることもある
夫への不満が特に大きくなくても、性的なことそのものに嫌悪感が出ることがあります。
以前は平気だったのに、今は性的な雰囲気になるだけで気持ちが引いてしまう。身体に触れられると緊張する。キスやセックスを考えるだけで嫌になる。
こういう場合、「夫婦仲が悪いから」と考えても、しっくりこないことがあります。
性に対する感じ方は、ずっと同じとは限りません。年齢や生活の変化、出産などをきっかけに変わることもありますし、それまであまり意識していなかった性への抵抗が、後になって強く感じられることもあります。
「夫だから嫌」というより、「性的なことそのものが今は嫌」という場合もあるのです。
ここを見分けないまま、「夫婦関係を良くすればセックスしたくなるはず」と考えると、自分でも理由がわからず苦しくなることがあります。
日常では近くないのに、性的なときだけ近づかれる違和感
夫婦の間で、普段の会話が減っている。気持ちを聞いてもらうことも少ない。自分が困っているときには気づいてもらえない。
そんな状態が続いているのに、性的なときだけ夫が近づいてくると、「そのときだけ?」という気持ちになることがあります。
女性として大切にされたいというのは、性的に求められたいということだけではありません。
話を聞いてもらう。自分のことを気にかけてもらう。夫婦として一緒に過ごす。自分が何を感じているのかに関心を向けてもらう。
そういう関わりが少ないまま、身体だけを求められると、「私自身ではなく、セックスだけが必要なの?」と感じる人もいます。
その気持ちが続けば、触れられることそのものが嫌になっていくことがあります。
長い間の不満や失望が、身体の距離につながることもある
夫婦の間で積み重なってきたものが影響する人もいます。
何度話しても聞いてもらえなかった。困っているときに助けてもらえなかった。夫に期待して、何度もがっかりした。言いたいことを飲み込むことが増えた。
一つひとつは大きな出来事ではなくても、それが長く続くと、夫に近づきたいという気持ちが少しずつなくなることがあります。
普段は普通に会話もできるし、一緒に食事もできる。それでも、性的に近づかれると嫌になる。
気持ちの上では距離を取っているのに、身体だけ近づくことに抵抗が出ているのかもしれません。
この場合、セックスレスだけを何とかしようとしても難しいことがあります。まず夫婦の間で何が積み重なってきたのかを見る必要があります。
嫌なのに応じてきたことで、触れられること自体が嫌になることがある
「本当は今日はしたくない」と思っていても、断れない人もいます。
夫婦だから応じた方がいい。断ったら夫がかわいそう。何度も断ったら関係が悪くなるかもしれない。浮気されたら困る。断ると夫の機嫌が悪くなる。
そんなことを考えて、自分の気持ちより夫を優先してきた人もいます。
一度や二度であれば、それほど負担にならないこともあります。でも、嫌だと思いながら応じることが何度も続くと、性的な時間そのものが「自分の気持ちを我慢する時間」になっていくことがあります。
すると、夫から触れられた時点で、「また応じなければならないのでは」と身構えるようになります。
ハグをされただけなのに、その先を求められる気がして嫌になる。隣に座られるだけで警戒する。寝室に入ること自体が落ち着かない。
こうなると、「スキンシップから始めましょう」と言われても、かえって苦しくなります。
大切なのは、触れ合いを増やすことより、まず「私は本当は嫌だったのに、どれくらい我慢してきたのだろう」と自分の気持ちを知ることです。
過去の性的な体験が影響している場合もある
夫との関係だけではなく、それ以前の経験が影響していることもあります。
昔から性的なことに強い恥ずかしさがあった。望んでいないのに応じた経験がある。嫌だと言えなかったことがある。過去に傷つくような性的な体験があった。
そうした経験があると、結婚して安心できる相手と一緒にいても、性的な場面で緊張や嫌悪感が出ることがあります。
必ず過去に大きな出来事があるという話ではありません。
ただ、「夫との関係をいくら考えても理由が見つからない」という場合には、自分がこれまで性についてどんな気持ちを持ってきたのかを振り返ることで、わかることもあります。
無理に思い出す必要はありませんし、一人で扱うのがつらい場合には、誰かに話しながら整理する方がよいこともあります。
身体の変化も、一つの理由になる
出産後や年齢による身体の変化によって、以前とは感覚が変わることもあります。
以前より性欲がわきにくくなった。触れられたときの感じ方が変わった。痛みや不快感がある。疲れやすくなった。
こうしたことがあると、「気持ちの問題」と思って自分を責めても解決しません。
心理的なことだけではなく、身体の状態が影響している可能性もあります。痛みや不快感などがある場合には、必要に応じて医療機関へ相談することも選択肢になります。
夫婦関係が悪いからでも、女性として何かが足りないからでもなく、身体が以前とは違う状態になっていることもあるのです。
「なぜ嫌なのかわからない」という人もいる
ここまでいくつかの理由を書いてきましたが、「私はどれにも当てはまらない」と思う人もいるでしょう。
それでも構いません。
人の気持ちは、「これが原因です」と一つに決められるものばかりではありません。
夫へのちょっとした不満、子どもが生まれてからの関係の変化、性への抵抗、嫌でも応じてきたこと、身体の変化など、いくつかのものが重なっていることもあります。
また、自分でもまだ気づいていない気持ちがあることもあります。
大切なのは、「触れられたくないなんておかしい」と思わずに、今の自分が何を嫌だと感じているのかを見ていくことです。
無理にセックスレスを解消しようとしない
セックスレスになると、「何とかしなければ」と思うかもしれません。
夫婦なのだからセックスした方がいい。まずスキンシップを増やした方がいい。自分から応じる努力をした方がいい。
でも、なぜ嫌なのかわからないまま身体だけ近づけようとすると、さらに嫌悪感が強くなることがあります。
原因によって、必要なことは違います。
夫婦の間の不満が大きいのであれば、その関係を見直すことが必要かもしれません。
「父親としてしか見られない」という感覚が強いなら、家族としての時間とは別に、二人の関係をどう感じているのかを考えることも必要でしょう。
性的なこと自体に嫌悪感があるのであれば、なぜそう感じるのかを急がずに見ていくことが大切です。
嫌なのに応じ続けてきたのであれば、まず自分が嫌だと言ってもいいことを取り戻す必要があるかもしれません。
身体の変化が関係しているなら、気持ちだけで解決しようとせず、身体の状態を確認することもできます。
同じ「セックスしたくない」でも、必要なことは人によって違うのです。
夫にどう伝えたらいいのか
自分でも理由がはっきりしないと、「夫に何と言えばいいのかわからない」と思うことがあります。
「あなたが嫌いだから」と言いたいわけではない。でも、「したくない」とだけ言えば夫を傷つけそうで困る。
そんなときは、答えが出ていないことも含めて伝えて構わないと思います。
「あなたを嫌いなわけではない。でも今は、性的に触れられることに抵抗がある」
「自分でも理由を整理したいと思っている」
「無理に応じることで、もっと嫌になってしまうのは避けたい」
こうしたことを伝えることもできます。
夫がどう受け取るかまでは決められません。
ただ、自分の気持ちがまだわからないのに、「大丈夫」と言って応じ続けるより、自分の状態を言葉にすることが必要な場合もあります。
まとめ|理由は人によって違うから、自分の場合を見つけていく
夫が嫌いではないのに、触れられたくない。
夫婦として一緒にいたいのに、性的な関係は持ちたくない。
そこには、人それぞれ違う理由があります。
夫婦の間に積み重なった不満がある人もいます。子どもが生まれて、夫を父親として見る感覚が強くなった人もいます。性的なことそのものに嫌悪感がある人、日常では大切にされている感じがないまま性的に求められることに抵抗がある人、嫌でも応じ続けてきた人もいます。身体の変化や、過去の体験が影響していることもあります。
だから、「妻なのだから応じなければ」「夫を愛しているならできるはず」と自分を責めても、理由は見えてきません。
まず必要なのは、セックスレスを急いで解消することより、「私は何に抵抗を感じているのだろう」と自分の場合を知ることです。
理由がわかれば、必要なことも変わってきます。
夫婦の関係を見直した方がいいのか。夫との距離の取り方を考えた方がいいのか。性に対する自分の気持ちを整理した方がいいのか。これまで我慢してきたことを見直した方がいいのか。身体について相談した方がいいのか。
原因を一つに決める必要はありません。いくつかの気持ちが重なっていることもありますし、自分一人では理由がわからないこともあります。
カウンセリングでは、「なぜ私は触れられたくないのだろう」というところから、その人の夫婦関係やこれまでの経験、性に対する気持ちを一緒に整理していきます。
「夫を嫌いなわけではないのに、どうしても触れられたくない」「自分でも理由がわからず、夫にどう伝えればいいのかわからない」というときにもご相談いただけます。



