夫とやり直していこうと決めた。
最近は日常の会話もできるようになり、一緒に食事をして、テレビを見ながら笑うこともある。夫が家にいるだけで緊張する状態からは、少し抜けてきたように思っていた。
ところが、隣に座った夫が肩に手を回した瞬間、反射的に体を離してしまう。
夫の傷ついた顔を見ると、「また拒んでしまった」と罪悪感が出る。このままでは夫婦関係が戻らないと思い、次は逃げないようにしようと決める。それでも触れられると、体がこわばり、嫌悪感や怒りが先に出る。
夫を嫌いになったわけではない。やり直したい気持ちもある。
それなのに、なぜ気持ちと体の反応が一致しないのでしょうか。
・やり直したいのに、夫に触れられたくない理由
・浮気後の接触に嫌悪感や怒りが出る心理
・再構築を急がないために確認したいこと
関係を続けたい気持ちと、触れられたくない感覚は別のもの
夫の浮気がわかっても、別れずに関係を続けたいと思うことはあります。
まだ夫への気持ちが残っている。長く築いてきた生活を簡単には終わらせたくない。子どものこともある。夫が反省し、やり直そうとしている姿を見て、もう一度信じてみたいと思うこともあるでしょう。
ただ、「一緒に暮らしていく」と決めることと、「今すぐ夫に触れられても平気になる」ことは、同じではありません。
頭では、これからの夫婦関係を考えようとしている。
一方で、感情はまだ、裏切られた出来事を受け止めきれていない。夫への警戒、怒り、悲しみ、嫌悪感が残っていることもあります。
その違いに、妻自身がいちばん戸惑います。
「やり直すと決めたのは自分なのに」
「夫も努力しているのに」
「私は本当は夫を許す気がないのだろうか」
そんなふうに、自分が決めたことまで疑いたくなるかもしれません。
けれど、一緒に暮らすことを選びながら、今は接触を受け入れられないという状態はあり得ます。
夫婦関係を再構築すると決めたからといって、すぐにスキンシップや夫婦生活へ応じなければならないわけではありません。
浮気という行動を選んだ責任は、浮気した本人にあります。夫婦の間に問題があったとしても、浮気を選んだ責任が、妻の魅力や夫婦生活の不足のせいになるわけではありません。
今の自分が望んでいない接触を受け入れることまで、再構築の条件にする必要はないのです。
夫に触れられることが、浮気の記憶と結びついている
浮気がわかる前は、夫に触れられることを愛情表現として受け取れていたかもしれません。
手をつなぐ。肩を抱く。隣に座って体を寄せる。
それまで何気なく受け入れていた関わりが、浮気発覚後は、まったく違う意味を持つことがあります。
夫の手に触れた瞬間、
「この手で、浮気相手にも触れたのだろうか」
「私に言っていた言葉を、相手にも言っていたのだろうか」
「私は知らなかったけれど、この人には別の顔があった」
「夫婦だけの関わりだと思っていたのに、特別ではなかったのかもしれない」
そんな考えが浮かぶこともあります。
夫にとっては、妻に向けた愛情表現のつもりかもしれません。
しかし妻にとっては、夫からの接触が、浮気の事実や浮気相手の存在を思い出すきっかけになっているのです。
触れられた瞬間に体が離れるのは、「夫に触れられること」だけに反応しているとは限りません。
夫に触れられることで思い出す場面や、頭の中に浮かぶ浮気相手の姿、知らなかった夫の一面に反応していることがあります。
だから、普段は夫と普通に話せていても、接触だけは難しいということが起こります。
会話をしているときには抑えられていた怒りや悲しみが、夫の体に触れた瞬間、一気に出てくることもあります。
夫を嫌いになったかどうかだけでは説明できない反応なのです。
何事もなかったように戻ろうとする夫への怒り
浮気相手との関係を終え、妻に謝った夫は、「これから夫婦関係を戻していこう」と考えます。
以前のように会話をする。食事へ出かける。手をつなぐ。抱きしめる。夫婦生活を再開する。
そうしたことが増えれば、関係は改善していると感じるのでしょう。
夫自身も、妻との距離が縮まることで、「自分は許され始めている」「夫婦は元に戻れる」と思いたいのかもしれません。
けれど、妻にとって、浮気相手との関係が終わったことと、傷ついた気持ちが整理されたことは別です。
夫が以前と同じ接し方へ急いで戻ろうとすると、
「私の苦しさは、もう終わったことにされるの?」
「あなたは謝ったから、それで済んだと思っているの?」
「私が受け入れたら、浮気は片づいたことになるの?」
「私の気持ちより、早く元に戻ることを優先しているの?」
という怒りが出ることがあります。
この場合、接触そのものが嫌というよりも、妻の気持ちを確認せず、夫の考える速さで関係を進めようとすることに抵抗しているのかもしれません。
夫が肩に手を回したことがきっかけになっていても、本当に腹が立っているのは、「私がまだ苦しんでいることをわかっていない」という部分だったりします。
妻が接触を受け入れれば、夫には「関係が戻った」と見えるかもしれない。
けれど妻にとっては、自分が受け入れることで、浮気による苦しみまでなかったことにされるように感じる。
そのため、体を離すことで、「まだ終わっていない」「私の気持ちを置き去りにしないで」と伝えようとすることがあります。
本人が意識して夫を罰しているとは限りません。
言葉でうまく伝えられないものが、身体的な距離として表れていることがあるのです。
女性として傷ついた感覚が、夫に触れられることを難しくする
夫の浮気によって、女性としての自信が大きく揺らぐことがあります。
「私には女性としての魅力がなかったのだろうか」
「夫は私の体に満足していなかったのだろうか」
「浮気相手と比べられているのではないか」
「私を見ながら、別の女性を思い出すのではないか」
「妻としては残されたけれど、女性としては選ばれなかったのではないか」
こうした思いを抱えている状態で夫に触れられると、愛情を受け取るより先に、比較される恐れや恥ずかしさが出ることがあります。
夫の視線にさらされているように感じたり、自分の年齢や容姿、体型が急に気になったりすることもあるでしょう。
夫が何も言っていなくても、妻の中では浮気相手との比較が始まります。
「私と相手のどちらがよかったのだろう」
「夫は今、何を考えているのだろう」
「私で我慢しているだけではないのか」
夫に触れられることが、女性として受け入れられている安心感になるどころか、むしろ「自分がどう見られているかを試されている」ように感じてしまうのです。
また、夫婦だけの特別な関係だと思っていたものが、浮気によって壊れたように感じることもあります。
夫と妻の間だけにあると思っていた関わりを、夫がほかの女性とも持っていた。
その事実によって、「夫婦だから触れ合える」という感覚が揺らぎます。
夫の体を受け入れることが、浮気相手との関係まで含めて受け入れることのように感じ、強い嫌悪感が出る場合もあります。
触れられたくない感覚は、夫への愛情が完全になくなった証拠とは限りません。
女性として傷ついた感覚や、夫婦だけの特別な関係を失った悲しみが、身体的な距離に表れている可能性があります。
拒むことで、自分で決める感覚を取り戻そうとすることもある
浮気は、妻の知らないところで進みます。
妻には、事前に知ることも、意見を言うことも、拒否することもできませんでした。
夫と浮気相手が関係を続けている間、妻だけが何も知らず、選択する機会を持てなかったのです。
浮気が発覚したあと、夫の接触を拒むことで、
「今度は私が決めたい」
「夫の都合で進めさせたくない」
「私の気持ちを無視されたくない」
「簡単に許されたと思われたくない」
という思いが表れることがあります。
これは、夫を苦しませるためだけの行動とは限りません。
浮気によって失った「自分で決められる」という感覚を、接触の場面で取り戻そうとしている可能性があります。
夫が浮気をしていたとき、妻の意思は関係なく、夫の判断で物事が進みました。
浮気発覚後まで、夫の「そろそろ元に戻りたい」「もう夫婦生活を再開してもよいだろう」という判断に従うことになれば、妻はまた、自分の意思を置き去りにされたように感じます。
だからこそ、「今は触れられたくない」という感覚には、これ以上、自分を無視されたくないという思いが含まれていることがあります。
もちろん、すべての拒否にこの心理があるとは限りません。
浮気の記憶が浮かぶ人もいれば、嫌悪感が強い人、夫への怒りが収まっていない人、女性として見られることが怖い人もいます。
大切なのは、「なぜ拒むのか」を一つの理由に決めることではなく、今の自分が何に反応しているのかを見ていくことです。
「断ったら、また浮気されるかもしれない」という不安
本当は触れられたくないと思っていても、断れない人もいます。
「断ったら、また夫が外へ行くかもしれない」
「夫婦生活がなかったことを、浮気の理由にされるかもしれない」
「拒み続けたら、離婚を言い出されるかもしれない」
「夫も努力しているのに、私だけが関係を止めていると思われそう」
「やり直すと決めたのに応じない私が悪いのではないか」
そう考え、気持ちを押し込めて応じようとすることがあります。
浮気されたことで、「夫を満足させられなければ、また別の女性へ行く」という恐れが強くなっている場合もあります。
夫婦関係を守るためには、嫌でも応じなければならない。夫を拒否しない妻になれば、もう浮気されない。
そんな考えに追い立てられることもあるでしょう。
しかし、自分の気持ちを押し込めて応じるほど、夫への嫌悪感が強くなることがあります。
夫に触れられたことへの怒りだけでなく、断れなかった自分への怒りまで残るからです。
「どうして私が、浮気されたうえに、夫がまた浮気しないように我慢しなければならないのか」
あとから、そんな思いが出ることもあります。
関係を守るために我慢しているつもりでも、我慢が積み重なることで、夫への気持ちがさらに遠ざかる場合があります。
夫婦関係を続けると決めたことは、すべての接触に応じると約束したことではありません。
今は何を受け入れられ、何には抵抗があるのか。それを妻自身が確認し、夫婦で話し合うことも、再構築の一部です。
以前から「嫌だ」と言えなかった人ほど、自分を急かしやすい
今回の浮気以前から、相手の希望を優先することが多かった人もいます。
・相手が望んでいると断れない
・自分が我慢すれば関係が続くと思う
・相手をがっかりさせることに強い罪悪感がある
・嫌だと伝えると見捨てられる気がする
・自分の感覚より相手の機嫌を優先する
こうした関わり方を長く続けてきた人は、「触れられたくない」という自分の感覚まで否定しやすくなります。
夫が寂しそうにすると、かわいそうに思う。夫が傷ついた顔をすると、自分がひどいことをしたように感じる。夫が不機嫌になれば、拒んだ自分が関係を壊しているように思える。
そして、「早く元に戻らなければ」と自分を急かします。
過去の家族関係の中で、親の機嫌を優先してきた人もいるでしょう。
自分が嫌だと言うと、相手が怒ったり、悲しんだり、黙り込んだりした経験から、「自分の希望を伝えると関係が悪くなる」と思うようになった人もいます。
過去の恋愛で、断ったことを理由に責められたり、別れをほのめかされたりした経験が影響している場合もあります。
ただし、夫に触れられたくない理由を、すべて過去の経験に求める必要はありません。
今回の浮気だけでも、接触への抵抗が出ることはあります。
一方で、断ることへの罪悪感が強すぎる、自分の希望を伝えようとすると強い恐れが出るという場合には、以前からの関わり方が重なっていないかを見ることも必要です。
触れられるようになったかどうかだけで、再構築を判断しない
夫婦関係を再構築できているかどうかを、スキンシップや夫婦生活が再開したかだけで判断する必要はありません。
接触が再開していても、妻が自分の気持ちを言えず、夫の機嫌を損ねないために応じているなら、夫婦の間にある問題が整理されたとは言いにくいでしょう。
反対に、まだ身体的な距離はあっても、浮気について話せるようになり、夫が妻の怒りや悲しみを聞き、自分の行動に向き合っているなら、関係を作り直すための土台は少しずつできてきています。
再構築を考えるときには、次のような点も確認する必要があります。
・浮気について夫婦で話せるか
・妻の怒りや悲しみを夫が受け止められるか
・夫が妻のペースを尊重できるか
・新たな嘘や隠し事が出てこないか
・夫が自分の浮気をどのように理解しているか
・妻が自分の感覚や希望を言葉にできるか
夫が、拒否されたことだけに傷つき、妻を責めるようであれば、妻はますます本音を言えなくなります。
「いつまで待てばいいのか」と期限を迫ったり、接触を受け入れられるかどうかで妻の愛情を確かめようとしたりすると、触れられることが試験のようになってしまいます。
夫側には、触れてよいかを確認し、拒否されても不機嫌にならず、妻が何を思い出し、何に抵抗を感じているのかを聞く姿勢が必要です。
接触を求める前に、自分が損なった信頼へ向き合う必要もあります。
妻が夫に触れられなくなったことだけを問題として見ると、浮気によって夫婦の信頼や安心感がどれだけ傷ついたのかが見えにくくなってしまいます。
以前と同じスキンシップへ戻ることを急ぐより、妻が「嫌だ」「今は難しい」「ここまでなら受け入れられる」と言える関係を作る方が、これからの夫婦にとって重要なこともあります。
スキンシップや夫婦生活の再開は、許した証明でも、再構築が成功した証明でもありません。
妻の気持ちを置き去りにしたまま元の形へ戻そうとすると、夫婦の距離がさらに広がることがあります。
自分の中で確認してみたいこと
すぐに答えを出す必要はありません。
考えることで苦しさが強くなる場合は中断し、今の自分が言葉にできそうな問いだけ確認してみてください。
1.夫に触れられた瞬間、最初に出てくる感情は、怒り、嫌悪感、不安、悲しみのどれに近いでしょうか。
2.接触そのものが嫌なのでしょうか。それとも、夫が何事もなかったように接してくることが嫌なのでしょうか。
3.夫に触れられたとき、浮気相手についてどのようなことを想像しますか。
4.夫の接触を断ったら、何が起きると思っていますか。
5.本当は夫に、触れようとする前に何をわかってほしいのでしょうか。
6.今の自分が決められるとしたら、どの程度の距離なら受け入れられそうでしょうか。
手をつなぐことは難しいけれど、同じソファに座ることならできる。
抱きしめられるのは嫌だけれど、自分から肩に触れることなら抵抗が少ない。
今は、身体的な接触そのものを望んでいない。
どの答えが正しいということではありません。
また、昨日は平気だったのに、今日は触れられたくないということもあります。
今の感覚を言葉にすることは、今後もずっと拒み続けると決めることではありません。その時点で受け入れられることと、難しいことを知るための確認です。
まとめ|触れられたくない感覚を、再構築を拒む証拠にしない
夫の浮気後、触れられたくないと感じることだけで、夫への愛情がなくなったとは決められません。
夫婦関係を続けると決めても、傷ついた気持ちがすぐに追いつくとは限りません。
夫の接触によって、浮気相手の存在を思い出すことがあります。夫婦だけのものだと思っていた関わりが壊れた悲しみや、女性として比べられる怖さが出てくることもあります。
また、夫が何事もなかったように元へ戻ろうとしていると感じ、怒りが拒否として表れることもあるでしょう。
接触を受け入れることを、夫を許した証明や、再構築へ真剣に取り組んでいる証明にする必要はありません。
まず必要なのは、「触れられない自分をどう変えるか」と急ぐことより、夫に触れられたときに何を思い出し、何を感じ、何を守ろうとしているのかを理解することです。
そして、妻だけが努力して以前の夫婦へ戻す問題でもありません。
夫側にも、妻のペースを尊重し、拒否されたことだけに反応せず、自分の行動によって失われた信頼へ向き合う責任があります。
カウンセリングでも、夫に触れられたときに出てくる怒り、嫌悪感、悲しみ、怖さを整理し、浮気によって傷ついた信頼や女性としての自信、夫婦だけの特別な関係だと思っていた感覚を見ていきます。
頭では関係を続けたいと考えていても、感情が追いつかないことがあります。
その背景に、断ることへの罪悪感や、「拒めば見捨てられる」という不安が以前からなかったかを確認することもあります。過去に表現できなかった怒りや悲しみが現在の反応に重なっている場合は、その感情も現在の出来事と分けながら整理していきます。
夫婦で話し合う必要がある部分と、妻自身の中で整理する部分は同じではありません。
夫に伝えることと、自分の感情を理解することを分けて考えることで、受け入れるか拒むかを、その場の恐れや夫の機嫌だけで決めずに済むようになります。
以前とまったく同じ夫婦へ戻ることだけを目標にせず、これからは互いの意思をどのように確認し、何を話せる関係を作るのかを考えることが、再構築の土台になります。
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触れられたくない自分を責めてしまうときや、夫へどのように伝えればよいかわからないときは、現在の反応と、その奥にある怒りや悲しみをカウンセリングで整理していただけます。



