「もう浮気のことを言うのはやめよう」
そう決めたはずなのに、夫がスマホを伏せただけで疑いが戻ってくる。何事もなかったように食事をし、テレビを見ている夫に、「私がこれほど苦しいのに、よく普通にしていられるね」と言いたくなる。
関係を改善したい。問い詰め続けても、夫が遠ざかるだけだと頭ではわかっている。
それでも止められない。
そして言ったあとには、「また夫の気持ちを遠ざけた」「こんな私だから浮気されたのかもしれない」と、今度は自分に腹を立てる。
夫を責めずにはいられない一番奥には、怒りだけでなく、夫にわかってもらえない大きな悲しみがあります。
何度聞いても、また同じことを聞きたくなる
浮気が発覚したあと、妻は夫に何度も質問することがあります。
「どうして浮気したの?」
「浮気相手のどこがよかったの?」
「私のことをどう思っていたの?」
「本当にもう終わっているの?」
「悪いことをしたと思っているの?」
昨日も聞いた。先週も聞いた。夫の答えも、すでに聞いている。
それでも、また確認したくなります。
妻が求めているのは、浮気の経緯についての説明だけではありません。
本当に知りたいのは、
「私がどれほど傷ついたかわかっている?」
「今も苦しんでいる私が見えている?」
「あなたにとっては、もう終わった話なの?」
「私の悲しみを軽く扱っていない?」
ということです。
夫から納得できる答えが出てくれば、悲しみが少しは軽くなるのではないかと思います。
けれども夫が何と答えても、妻が受けた傷そのものが消えるわけではありません。
「寂しかった」と言われれば、妻のせいにされたようで傷つく。
「特に理由はない」と言われれば、そんな理由で家庭を壊したのかと腹が立つ。
浮気相手を褒められれば傷つき、「何とも思っていなかった」と言われても納得できない。
そのため、答えを聞いても終われず、また問い詰めたくなります。
怒りの下には「悲しみをわかってほしい」がある
夫へ向けて出てくるのは、怒りの言葉です。
「最低」
「気持ち悪い」
「よく平気で帰ってこられたね」
「私の人生を壊した」
「どうせまた浮気するんでしょう」
しかし、その下には悲しみがあります。
夫を信じていたのに裏切られた。
自分は妻として選ばれていると思っていたのに、ほかの女性へ向かわれた。
二人で過ごしてきた時間まで、夫には大したものではなかったように感じる。
今後もまた裏切られるかもしれない。
別れたくない場合には、夫を失うかもしれない怖さもあります。
本当は、
「つらい」
「悲しい」
「苦しい」
「この気持ちをわかってほしい」
と言いたいのです。
けれども、浮気をした夫が普通に生活している姿を見ると、悲しみをそのまま伝えるより先に怒りが出ます。
夫にも自分と同じ重さを感じてほしい。自分だけが苦しんでいる状態を終わらせたい。
その思いが、攻撃する言葉になって表れます。
【白抜きボックス】
夫を責める言葉の奥にあるもの
・浮気によって受けた悲しみをわかってほしい
・自分だけが苦しんでいる理不尽さを何とかしたい
・浮気を簡単に過去の話にしないでほしい
・また裏切られる怖さをなくしてほしい
・夫を失うかもしれない不安をどうにかしてほしい
【ここまで】
妻は夫を痛めつけることだけを望んでいるわけではありません。
どうしようもない気持ちを、自分では処理できずにいるのです。
傷つけた本人に、傷の手当てまで求めたくなる
たとえば、誰かにけがをさせられたとします。
けがをさせた相手には、謝罪や必要な責任を求めるでしょう。
同時に、
「あなたが傷つけたのだから、あなたがこの痛みを何とかして」
と言いたくなるかもしれません。
しかし、相手に「謝って」「痛みを理解して」「あなたが治して」と繰り返しても、けがの手当ては進みません。
相手は自分が傷つけた罪悪感に耐えられず、逃げたくなることもあります。
けがをしたときに優先するのは、相手に痛みをわからせることよりも、医師に診てもらい、傷の手当てをすることです。
浮気による傷も似ています。
夫には、自分がしたことを認め、うそをやめ、必要な責任を引き受けてもらう必要があります。
一方で、妻の悲しみや苦しさのすべてを夫だけに受け止めてもらおうとすると、夫の反応次第で妻の気持ちが大きく揺れ動くようになります。
夫が謝れば少し落ち着く。
夫が黙れば、また怒りが出る。
夫が面倒そうな顔をすれば、自分の悲しみを無視されたように感じる。
これでは妻の傷の手当てが、夫の態度次第になってしまいます。
夫が妻の悲しみを受け止められないことがある
浮気をした夫なら、妻の悲しみを受け止めて当然だと思うでしょう。
しかし、浮気発覚直後の夫には、それができない場合があります。
妻の悲しみを聞くことは、自分がどれほど妻を傷つけたかを見ることでもあります。
夫がまだ罪悪感と向き合えないと、
「もう謝った」
「いつまでその話をするの?」
「そんなに言われたら一緒にいられない」
と逃げたり、反発したりします。
妻はその態度を見て、「反省していない」と感じ、さらに怒ります。
夫はさらに自分を守るため、黙る、部屋を出る、妻の問題を持ち出す、逆に離婚を口にする。
こうして、
妻が悲しみをわからせようとする
夫が罪悪感から逃げる
妻が見捨てられたように感じて、さらに攻撃する
夫がますます距離を取る
という循環が起こります。
夫が本当の意味で妻の悲しみを理解し、謝罪できるようになるまでには時間がかかることがあります。
妻から繰り返し攻撃される状態が終わり、二人の間に不足していたものが補われ、夫自身が罪悪感から逃げずにいられるようになって、初めて、
「あのときは本当に申し訳なかった」
「あなたをあれほど傷つけたことが、今になってわかる」
と言える人もいます。
夫婦関係が改善してから数年後に、ようやくこのような謝罪が出ることも珍しくありません。
夫を責めたあとに、自分まで攻撃してしまう
夫へ怒りをぶつけた直後は、夫にわからせなければという気持ちが強くなっています。
しかし、夫が黙ったり、冷たい顔をしたりすると、今度は不安が出てきます。
「嫌われた」
「また夫を遠ざけた」
「関係を改善したいのに、自分で壊している」
「こんな私だから浮気されたのかもしれない」
夫へ向けていた怒りが、自分へ向かいます。
そして、
「もう何も言わない」
「もっと優しくしなければ」
「浮気のことは忘れなければ」
と感情を抑えようとします。
けれども、怒りの下にある悲しみは何も整理されていません。
夫がスマホを触る。帰宅が遅い。普通に笑う。面倒そうな態度を取る。
そのたびに悲しみが刺激され、再び怒りとして出てきます。
問い詰める。後悔する。我慢する。また問い詰める。
この繰り返しを止めるには、怒りを出さないように努力するより、先に悲しみを受け止めてもらう必要があります。
責めずに済むようになるには、自分の傷の手当てが先
夫を責めないようにしようと決めるだけでは、怒りは止まりません。
自分がなぜ怒っているのかを理解し、その下にある感情を誰かに話すことが必要です。
「浮気を知ったとき、本当に悲しかった」
「妻として選ばれていなかったように感じた」
「夫が普通にしていることが許せない」
「また裏切られるのが怖い」
「夫を失いたくない」
「こんな気持ちを抱えている自分にも疲れた」
友人や家族、カウンセラーなど、妻の気持ちを否定せずに聞ける人へ話します。
人は、自分の感情を誰かに受け止めてもらい、理解しようとしてもらうことで、抱えているものを整理していけます。
怒りや悲しみを夫へぶつけず、一人で我慢するという意味ではありません。
夫以外の場所でも、きちんと感情を出すのです。
自分の傷の手当てが進むと、夫へ向ける言葉も変わります。
「あなたのせいで私はめちゃくちゃになった」
という攻撃から、
「私は浮気を知ってから、毎日とても悲しい」
「あなたが普通にしていると、私の苦しみを忘れられたように感じる」
「また裏切られるのではないかと怖くなる」
と、自分の感情を言葉にしやすくなります。
怒りを持ってはいけないわけではありません。
怒りをそのまま相手へぶつけることと、怒りの下にある悲しみを伝えることを分けていくのです。
妻の傷と、夫婦関係の問題は順番を分けて考える
浮気が起きた以上、それまでの夫婦関係に何もなかったことにはできません。
会話が減っていた。妻が子どもにかかりきりになり、夫が除け者のように感じていた。妻が夫にきつく接していた。セックスレスだった。互いを異性として見なくなっていた。
夫婦の中で、何らかの不足があった可能性はあります。
夫が優しさを受け取れなかったなら、優しく接してくれる相手へ向かう。
男性として見られていないと感じていたなら、異性として認めてくれる相手へ向かう。
頼られることが不足していたなら、自分を頼ってくれる相手に惹かれる。
浮気相手の特徴が、夫婦の中で不足していたものを教えてくれることもあります。
しかし、妻の傷がまだ大きい段階でこの話をされても、
「浮気された私が反省しなければならないの?」
「夫の浮気を私のせいにするの?」
と感じるでしょう。
だから順番が大事です。
【白抜きボックス】
浮気後に整理したい順番
・まず、妻が受けた怒りや悲しみを誰かに受け止めてもらう
・夫へ何をわかってほしかったのかを整理する
・怒りと、その下にある悲しみを分ける
・感情が少し整理されてから、浮気前の夫婦関係を見る
・夫婦の中で、自分が変えられる関わり方へ取り組む
【ここまで】
妻の傷の手当てと、夫婦関係に不足していたものを見ることは、どちらも必要です。
ただし、一度に行おうとすると、妻は自分の悲しみを置き去りにしたまま、理解のある妻を演じることになります。
夫婦の問題を考えることは、夫の責任を妻が背負うことではない
夫婦関係に問題があったとしても、浮気という行動を選んだのは夫です。
ただ、「浮気をした夫が悪い」という正しさを夫へ突きつけ続ければ、夫婦の間に何が不足していたのかは話せなくなります。
夫が何を話しても、
「それでも浮気してよい理由にはならない」
「私のせいにしないで」
と返せば、夫は自分が感じていたことを話さなくなるでしょう。
妻が家族のために頑張っていたことと、夫には優しさや関心が届いていなかったことは同時に起こり得ます。
「私は頑張っていた」と正しさを主張しても、夫にはそう感じられなかったという事実は残ります。
夫婦関係を改善したいなら、夫の感じ方を正しいか間違っているかで判定する前に、
「あなたには、そう感じていたのね」
と受け取る必要があります。
浮気を許すことでも、妻が浮気させたと認めることでもありません。
二人の間で何が起きていたのかを知るためです。
まとめ
夫を責めずにはいられない一番奥には、悲しみがあります。
自分がどれほどつらく、苦しく、傷ついているのかをわかってほしい。
しかし、その悲しみをそのまま言葉にできず、怒りとして夫へぶつけてしまうことがあります。
夫は妻の悲しみを聞くことで、自分の罪悪感と向き合わなければなりません。まだそれができない夫は、黙る、逃げる、逆に怒るという反応をすることがあります。
妻は「反省していない」と感じ、さらに攻撃する。
そのあとで、「また嫌われた」「こんな自分だから浮気された」と自分まで攻撃する。
責める、後悔する、我慢する、また責めるという循環を止めるには、責めないように努力するよりも、妻自身の傷の手当てを先に行う必要があります。
友人や家族、カウンセラーなどに、怒り、悲しみ、悔しさ、夫を失う怖さを話す。
誰かにわかってもらい、受け止めてもらうことで、夫へわからせようとする力は少しずつ弱まっていきます。
カウンセリングでは、夫を責めたい気持ちを否定せず、その下にある悲しみや怖さを整理します。
夫に本当は何をわかってほしかったのか、夫へ求める責任と、自分の苦しさの処理がどこで混ざっているのかも見ていきます。
自分の傷の手当てが進んでから、浮気前の夫婦に何が不足していたのか、自分はどのような関わり方を変えたいのかを考えることができます。
浮気後の関係改善は、怒りを我慢し、何事もなかったように振る舞うことではありません。
責めずにはいられない自分を理解し、自分の悲しみを夫だけに背負わせず、まず必要な手当てを受ける。
そこから、夫婦関係について考えられる状態を作っていくことです。


