「そんなに気にしていないと思っていた」
そう話していたのに、誰かに話しているうちに急に涙が出てくる。
「もうどうでもいい」
と言っていたのに、
「本当は、わかってほしかったのかもしれない」
という言葉が、自分の口から出てきて驚く。
そんなことがあります。
自分の気持ちは、自分の中にあるものです。
それなら、一人で考えていればわかりそうなものですが、実際にはそうとは限りません。
誰かに話したときに初めて、
「私、こんなことを感じていたんだ」
と気づくことがあります。
それは、相手が答えを教えてくれたからではありません。
その人との間にやり取りが生まれたことで、自分の中にあったものが動き、今までとは違う形で見えてくることがあるからです。
この記事で扱うこと
この記事では、
- なぜ一人で考えていても見えなかった気持ちが、人と話すと見えてくるのか
- 相手の言葉や反応によって、自分の中で何が起きるのか
- AIと話すことと、人と話すことにはどんな違いがあるのか
- 人との関わりの中で、自分でも知らなかった自分に気づくことがある理由
について考えていきます。
自分を知ることは、自分の内側だけを見ることではありません。
誰かとのやり取りの中で初めて見えてくる気持ちや、自分もあります。
一人で考えていると、見え方が変わりにくいことがある
一人で考える時間は大切です。
でも、同じことを何度考えても、同じ結論に戻ってしまうことがあります。
「仕方ないよね」
「私が気にしすぎなのかな」
「もう終わったことだし」
「考えてもどうにもならない」
こうした考えが悪いわけではありません。
ただ、一人で考えていると、自分がこれまで使ってきた考え方の中で答えを探すことになります。
すると、出来事については何度も考えていても、
そのとき自分に何が起きていたのか
には、なかなか目が向かないことがあります。
人に話すと、自分の言葉を自分で聞くことになる
誰かに話すとき、頭の中にあることを言葉にします。
そして、自分で話した言葉を自分で聞いたとき、
「今、私こんなこと言ったな」
と気づくことがあります。
たとえば、
「別に怒っているわけじゃない。ただ……すごく悲しかった」
と話して、自分でも驚く。
「もう期待していない」と言ったあとに、
「でも、本当は一度くらい気づいてほしかった」
と続く。
最初からその答えをはっきり持っていたわけではないこともあります。
話しているうちに、言葉が出てきた。
そして、その言葉を自分で聞いたことで、
自分の気持ちが初めてはっきりする。
そんなことがあります。
相手の言葉によって、自分の中に反応が起きる
人とのやり取りでは、相手からも言葉が返ってきます。
「それ、寂しかったんじゃない?」
と言われたとき、
「いや、寂しいというより腹が立った」
と思うかもしれません。
あるいは、
「そうか。私、寂しかったのかもしれない」
と思うかもしれません。
大切なのは、相手の言葉が正解かどうかではありません。
その言葉を受け取った自分の中で、何が起きたのか。
そこに手がかりがあります。
しっくりくる。
違和感がある。
急に苦しくなる。
なぜかホッとする。
腹が立つ。
涙が出る。
こうした反応を通して、自分の中にあったものが見えてくることがあります。
誰と話すかによって、出てくる言葉が違うこともある
同じ出来事でも、誰に話すかによって、話す内容が変わることがあります。
ある人には、
「まあ、大丈夫です」
としか言えなかった。
でも、別の人には、
「本当は、すごく悔しかった」
と言えた。
これは、どちらかが嘘だったということではありません。
人との間には、それぞれ違う感情が生まれるからです。
安心できる。
評価されそうで緊張する。
わかってもらえそうだと感じる。
これ以上近づいてほしくないと感じる。
そうしたものが、その人との間にあります。
だから、人との関係によって、自分の中のどの部分が出てくるかも変わるのです。
そして、人との間に何が生まれるかによって、今まで見えていなかった感情が見えてくることがあります。
人と人との間で、どのように感情や新しいものが生まれるのかについては、こちらの記事でも書いています。
→「誰かと出会って、何かが起こる|人と人の『間(あわい)』に生まれるもの」
AIと話すことと、人と話すことは何が違うのか
今は、AIに話を聞いてもらったり、考えを整理したりすることもできます。
AIとの会話には、便利なところがあります。
何度でも言葉を整理できる。
時間を気にせず話せる。
人にはまだ言いにくいことを、まず言葉にしてみることもできる。
考えを整理したり、
「自分は何を感じているんだろう」
と考えるきっかけとして使うこともできます。
でも、人と話すこととは少し違います。
人と話すときには、
「どう思われるだろう」
「わかってもらえた」
「否定されるかもしれない」
「この人には話しても大丈夫そう」
「なぜか、この人には言いたくない」
といった気持ちが、その人との関係の中で動きます。
そして、その反応を通して、自分でも知らなかった感情に気づくことがあります。
たとえば、AIには文章で簡単に書けたことなのに、人に話そうとすると急に言葉が出なくなる。
反対に、人から、
「それはつらかったね」
と言われた途端、涙が出る。
あるいは、
「私はそうは思わないけれど、あなたはどう思う?」
と言われたことで、
「私は本当はこう思っていた」
と、自分の考えがはっきりすることもあります。
そこには、情報を整理するだけではない、人と人との間で起きることがあります。
AIは、自分の考えを整理したり、言葉を探したりする助けになりますし、時には励ましてもくれます。
一方で、人との関係の中でしか気づけない自分もいます。
どちらかが良い悪いということではなく、役割が違うのだと思います。
話しているうちに、気持ちそのものが変わることもある
人に話すというと、
「もともと自分の中にあった本音を発見する」
というイメージがあるかもしれません。
でも、それだけではありません。
人とのやり取りの中で、今までとは違う気持ちが生まれることもあります。
たとえば、
「誰にも頼れない」
と思っていた人が、否定されずに話を聞いてもらったことで、
「この人には少し頼ってもいいのかもしれない」
と感じる。
ずっと、
「私が我慢すればいい」
と思っていた人が、
「あなたはどうしたいの?」
と聞かれて、
「私にも選ぶ権利があるのかもしれない」
と思う。
これは、隠れていた答えを探し当てただけとは限りません。
その人との間に新しい経験が生まれたことで、今までとは違う感じ方が生まれたとも考えられます。
人との関係の中では、自分でも予想していなかった感情や選択肢が生まれることがあるのです。
「本当の自分」を一つに決めなくてもいい
自分の気持ちを知ろうとすると、
「どれが本当の私なんだろう」
と考えることがあります。
でも、必ずしも一つの「本当の自分」を見つけなければならないわけではありません。
一人のときの自分。
仕事をしているときの自分。
親しい人といるときの自分。
初めて会う人といるときの自分。
どれも自分です。
そして、人との関係の中では、今まで知らなかった自分が出てくることもあります。
だから、
「本当の私はどれ?」
と絞り込むより、
「今、この人との間で、私の中に何が起きているんだろう」
と見てみる。
その方が、自分を固定せずに知っていけるのです。
気づいたことを、すぐ行動に変えなくてもいい
人と話して、
「私は寂しかったんだ」
と気づいた。
「本当は怒っていた」
と気づいた。
「もっと大切にしてほしかった」
と気づいた。
だからといって、すぐに相手へ伝えたり、何かを決断したりする必要はありません。
まずは、
「私はそう感じていたんだ」
と受け取る。
それだけでも、それまでとは違います。
気づきは、変化そのものではなく、変化が始まる入口です。
自分に何が起きているのかわかると、そこから「では、私はどうしたいのか」を考えられるようになります。
人との間で見えてくる自分もいる
自分のことを知るというと、一人で自分と向き合うことを思い浮かべるかもしれません。
でも、人は自分一人の中だけで完結しているわけではありません。
誰かと出会う。
言葉を交わす。
何かを受け取る。
そのとき、自分の中にも何かが起きます。
今まで言葉にならなかった気持ちが出てくることもあれば、今まで感じたことのない安心感や信頼が生まれることもあります。
人とのやり取りは、
まだ知らなかった自分に出会う時間になることもあるのです。
頑張るだけでは、うまくいかなくなったときに
頭ではどうすればよいかわかっているのに、同じことを何度も考えてしまう。
自分の気持ちを整理しようとしても、同じところを行ったり来たりする。
人に相談しても、
「そうだよね」とは思うけれど、何かが引っかかったまま残る。
そんなときは、一人で答えを出そうとするだけでは見えにくいものがあるのかもしれません。
カウンセリングでは、今起きていることと、そのときに感じていること、これまで言えずにきた感情などを整理しながら、これからどんなふうに関わっていきたいのかを一緒に考えていきます。
最初から、相談したいことがきれいにまとまっていなくても構いません。
「何から話したらいいかわからない」というところからでも大丈夫です。
話していく中で、自分でも気づいていなかった気持ちや、繰り返してきた反応が見えてくることがあります。



