「前向きに考えよう!」
そう言われた瞬間、「いや、無理!」「それができたら苦労しない」となる。──そんな経験、ありませんか。
ええ、私もです。
落ち込んでいるときって、まわりは「元気」プレゼントしてくるんですよね。
「大丈夫、大丈夫」「気持ちの持ちようだよ!」なんて。
いや、たぶんそれができたら苦労してない。
むしろ“前向きな言葉”が、プレッシャーに聞こえる日もあります。
自分で自分を励ますときも同じです。
「よし、ポジティブに!」と声をかけた直後、どこか遠くから「……はいはい」って返事が聞こえる。
頭では理解してるのに、心がついてこない。
そういうときって、ありますよね。
「前向きになれない」のは怠けているわけじゃない
私たちは「動けない自分」を見ると、すぐに焦ります。
まるで止まってしまったことが、いけないことのように感じる。
でも、実は心って“安全確認”が終わらないと動けない仕組みなんです。
たとえば夜、知らない廊下を歩くとき。
真っ暗な中で足が止まるのは、怖がりだからじゃなくて、危険がないかを確かめてるから。
それと同じで、「行きたくない」「やる気が出ない」というとき、
心の中では「本当に大丈夫?」「傷つかない?」という確認作業が起きているんです。
だから、前向きになれないのは“怠け”じゃなく“慎重さ”。
心がきちんとブレーキを踏んで、あなたを守ってくれている証拠なんです。
……そう思うと、なんだか心がかわいく感じませんか?
「ちょっと待って」と言いながらも、ちゃんとあなたを安全な道に導こうとしているんです。
落ち込みにも、ちゃんと役割がある
「落ち込む=悪いこと」と思われがちですが、心理学的にはまったく逆です。
落ち込みとは、心が「ちょっと立ち止まろう」と教えてくれているサイン。
たとえば──
不安は、未来に備えるためのアラーム。
怒りは、自分を守るための境界線。
悲しみは、エネルギーを回復するための休憩時間。
どれも、あなたを守るために働いている大切な感情なんです。
でも現代人の私たちは、「頑張ること」「前に進むこと」が正義のように思いがち。
だから立ち止まると、“止まっている自分”に罪悪感を感じてしまうんですよね。
だけど、立ち止まることにも意味があります。
ランナーがずっと走り続けたら倒れてしまうように、
心も時々、酸素を吸って休まなきゃ持たないんです。
落ち込むというのは、サボってるんじゃなくて、回復のための時間。
エネルギーが減っているからこそ、“再起動”している最中なんです。
元気になるより、“戻ってこられる”こと
「ポジティブでいる」という言葉、なんだかキラキラして聞こえますが、
本来の意味は“前向きに笑って過ごすこと”ではありません。
“落ちても、戻ってこられること”なんです。
たとえば、スマホのバッテリーが切れても、「もう終わりだ」と思う人はいませんよね。
充電すれば、また動く。
でも人間の心となると、少し疲れただけで「私ってダメだ」と思ってしまう。
本当は、ただエネルギー残量が減っているだけなのに。
落ち込むことも、怒ることも、涙が出ることも、すべて人間として“正常な反応”。
大切なのは、そのあと「どう戻ってくるか」。
それが、ポジティブ心理学がいう“レジリエンス(回復力)”なんです。
つまり、ポジティブな人って、“落ち込まない人”ではなく、“戻り上手な人”。
ちゃんと泣いて、ちゃんと休んで、また動けるようになる人。
これなら、ちょっと気がラクになりませんか?
「元気を出す」より「自分に優しくする」
夜、落ち込んで「何やってるんだろう」と思うことがあります。
SNSを見て、誰かの幸せ報告に心がザワッとしたり。
そんな夜は、無理に「元気を出さなきゃ」と思わなくていいんです。
むしろ、そのままの自分に「よく頑張ってるね」と声をかけてあげてください。
誰も褒めてくれなくても、自分で自分に「今日も一日、お疲れさま」と言うだけで、
心のバッテリーは少しずつ回復します。
ポジティブ心理学の世界では、“幸せとは問題がない状態ではなく、問題があっても自分に戻れる状態”と言われたりします。
つまり、笑顔でい続けることではなく、「悲しいときに悲しめる」「疲れたときに休める」ことこそが、心の健康なんです。
おわりに
前向きに生きようとすることは素晴らしい。
でも、前向きでいられない日があるのも、人間として自然なこと。
心が沈む日も、泣ける夜も、焦る朝もある。
そんな日があるからこそ、また笑える日が来たときに「よかった」と思えるんですよね。
もし、最近ちょっと“戻りにくい”なと感じたら、
それは「戻る力を育てるタイミング」なのかもしれません。
🌱
この“戻ってこられる力”について、もう少し丁寧にお話しする時間があります。
テーマは「未来を切り開くための心構え 〜ポジティブ心理学〜」。
日常で揺れる心をどう整えるのかを、心理学の視点からわかりやすく解説する心理学ナイトです。

