「私だって、家のことをずっとやっている」
「こっちだって、家族のことを考えて頑張っている」
「いつも私が相手に合わせている」
「何をしても、当たり前だと思われている気がする」
夫婦の間で不満がたまってくると、どちらにも「私はこんなにやっているのに」という気持ちが出てくることがあります。
自分なりに家族のことを考えてきた。相手が困らないように動いてきた。言いたいことを我慢したこともあるし、やりたくないことを引き受けたこともある。
だからこそ、相手から不満を言われると、「私がやってきたことは、何も見えていないの?」と思います。
ところが、相手も同じように、「自分だってやっているのに、どうしてわかってもらえないんだろう」と思っていることがあります。
一方は、生活を安定させることを大切にしてきたかもしれません。もう一方は、家のことを滞りなく回すことを大切にしてきたかもしれません。
相手の話を聞くことを大切にしてきた人もいれば、困ったことが起きたら解決することが愛情だと思ってきた人もいるでしょう。
どちらも、自分なりの方法で関係や家族を大切にしてきた。
それなのに、その頑張りが相手には思ったように伝わっていない。
すると、「私ばかり頑張っている」「この人は何もわかってくれない」という気持ちが、二人の間で強くなっていきます。
夫婦のすれ違いは、どちらか一人が家族を大切にしていないから起こるとは限りません。
お互いに何かを差し出しているのに、自分がしていることと相手が求めていることが噛み合わず、二人とも「わかってもらえていない」と感じていることがあります。
この記事では、夫婦がお互いに「私はこんなにやっているのに」と感じるとき、二人の間でどんなやり取りが繰り返されているのか、それぞれは何を大切にしてきたのか、そしてこれからどんな関係を作っていきたいのかを考えていきます。
同じ「家族を大切にしたい」でも、意味は同じとは限らない
「家族を大切にする」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
生活に困らないように働くこと。
貯金をして将来に備えること。
家のことをきちんと回すこと。
子どものことを考えること。
一緒に食事をすること。
今日あったことを話すこと。
困ったときには相談すること。
どれも家族を大切にする行動です。
ただ、人によって優先するものが違います。
たとえば、ある人は、「今は忙しくても、生活を安定させることが家族のためになる」と考えるかもしれません。
そのパートナーは、「生活も大切だけれど、そのために会話も一緒に過ごす時間もなくなるなら寂しい」と感じているかもしれません。
どちらかが間違っているという話ではありません。
二人とも「家族のため」と思っていても、何を大切にするかが違っているのです。
相手には「自分の頑張り」が見えていないように感じる
すれ違いが続くと、だんだん相手のしていることより、自分がしていることの方が目につくようになります。
「私はこれだけ家のことをやっている」
「私はこれだけ働いている」
「私はいつも相手の都合を考えている」
「私だってずっと我慢している」
それぞれに、言い分があります。
そして、「これだけやっているのだから、少しくらいわかってくれてもいいはず」という気持ちも出てきます。
ところが、相手も同じように思っていることがあります。
自分は家族のために頑張っている。
自分なりに相手のことを考えている。
それなのに、相手からは不満ばかり返ってくる。
すると、
「何をしても足りないと言われる」
「私のことは認めてもらえない」
という気持ちになっていきます。
一方では、
「何を言っても私の気持ちは後回しになる」
「私は大切にされていない」
という気持ちが強くなっています。
二人とも、自分の差し出しているものを相手に受け取ってもらえていないと感じているのです。
すれ違いが続くと、お互いの行動が相手を遠ざけてしまう
最初から大きな問題だったとは限りません。
少し話したかった。
たまには一緒に過ごしたかった。
もう少し協力してほしかった。
頑張っていることをわかってほしかった。
始まりは、そんなことだったかもしれません。
ところが、お願いしても思ったような反応が返ってこないと、不満がたまります。
「どうしてわかってくれないの?」と強い言い方になる。
相手は責められたと感じて、「こっちだってやっている」と反発したり、話すことをやめたりする。
それを見た側は、「やっぱり私の気持ちなんてどうでもいいんだ」と感じる。
すると、さらに言い方が強くなったり、逆に何も言わなくなったりします。
わかってほしいことがある
↓
思ったように受け取ってもらえない
↓
不満や寂しさがたまる
↓
強く訴える、あるいは諦めて黙る
↓
相手は責められた、拒絶されたと感じる
↓
反発する、避ける、さらに自分のやり方を続ける
↓
「やっぱりこの人にはわかってもらえない」と感じる
夫婦の問題は、一人の性格だけで作られているとは限りません。
二人の反応がつながって、同じやり取りが繰り返されていることがあります。
それぞれのやり方には、そうする理由がある
ここで、
「もっと話し合えばいい」
「もっと相手を優先すればいい」
と考えるだけでは、あまり変わらないことがあります。
なぜなら、それぞれが今の関わり方をするようになった背景があるからです。
結果を出すことで認められてきた人なら、家族への愛情も「役に立つこと」「問題を解決すること」で示そうとするかもしれません。
人の様子をよく見て、先回りすることで関係を保ってきた人なら、頼まなくても気づくことを愛情だと感じやすいかもしれません。
自分の希望を言っても聞いてもらえなかった経験がある人は、言葉にする前に諦めてしまうこともあります。
衝突の多い家庭で育った人なら、話し合うより距離を取る方が安全だと感じることもあります。
それぞれのやり方には、それによって人との関係を守ってきた理由があります。
だから、今のやり方が苦しさを生んでいるとしても、「そんな関わり方はやめればいい」で済む話ではなかったりするのです。
「何をしてほしいか」より、「私は何を大切にしたいのか」
夫婦で揉めると、
「もっと早く帰ってきて」
「もっと家のことをやって」
「もっと感謝して」
「もっと話を聞いて」
と、相手にしてほしいことが前面に出ます。
もちろん、それを伝えることも大切です。
でも、何度話しても同じところでぶつかるなら、もう少し奥を見る必要があります。
「私は、何がなくなるとこんなに寂しいのだろう」
「私は、この人とどんなふうに暮らしたかったのだろう」
「何をしてもらえたら、愛されていると感じるのだろう」
「私は、この家族の中で何を大切にしたいのだろう」
そこがわかると、伝える言葉も変わってきます。
たとえば、「仕事ばかりじゃない」という言葉の奥に、「あなたと一緒に生活している実感がほしい」があるのかもしれません。
「少しは感謝してよ」の奥には、「自分がしてきたことも、あなたに知っていてほしい」があるかもしれません。
言い争っている内容だけを見ると対立しているようでも、その奥には二人とも「関係を失いたくない」という気持ちがあることもあります。
相手の答えも、自分の思った通りとは限らない
本音を伝えれば、相手がすぐ理解してくれるとは限りません。
「私はもっと一緒に過ごしたい」と伝えたら、「今はそんな余裕がない」と言われるかもしれません。
「もっと家のことを一緒に考えてほしい」と言えば、「自分ではやっているつもりだった」と返ってくることもあります。
ここで初めて、二人の違いがはっきりします。
自分の気持ちを伝えることは、相手を自分の望む通りに変えることではありません。
相手が何を感じ、何を大切にしているのかも知ったうえで、「それなら二人はどうするのか」を考えることです。
どちらか一人のやり方に合わせることが、夫婦関係を作ることではありません。
違う二人が、これからの関わり方を作っていくことなのだと思います。
同じゴールを目指していても、今の関わり方を選び直すことはできる
夫婦がすれ違っていると、「私たちは価値観が合わないのかもしれない」と思うことがあります。
実際に、考え方が違うこともあるでしょう。
でも、価値観が違うことと、一緒にいられないことは同じではありません。
生活の安定を大切にする人と、日々のつながりを大切にする人がいてもいい。
問題は、その違いを話せないまま、「自分の方が正しい」「相手が間違っている」となってしまうことです。
今まで一方が多くを背負ってきたなら、役割を変えることもできます。
忙しさを理由に話せなくなっていたなら、何を話す時間だけは残すのかを決めることもできます。
期待するだけで言葉にしてこなかったのなら、伝え方を変えることもできます。
すべてを大きく変えなくても、「これからは二人で何を大切にしたいか」を話すところから、関係は変わり始めることがあります。
まとめ|二人の間で起きていることを見る
夫婦がすれ違うとき、どちらか一人に原因を探したくなることがあります。
「相手が仕事ばかりだから」
「相手が不満ばかりだから」
「相手がわかってくれないから」
もちろん、相手の行動に問題があることもあります。
けれども、長く続いているすれ違いなら、一人の問題だけでは説明できないことがあります。
自分は何を大切にしてきたのか。
相手は何を守ろうとしてきたのか。
自分の行動を受けて相手はどう反応し、その反応を見て自分は何を感じてきたのか。
そのやり取りを見ていくと、「どちらが悪いか」だけでは見えなかったものが出てきます。
これまでの関わり方にも、それを必要としてきた理由があります。
ただ、以前は役に立っていた方法が、今の二人には合わなくなっていることもあります。
カウンセリングでも、誰か一人を変えるためではなく、二人の間で何が繰り返されているのか、自分はその中で何を感じ、何を守ろうとしてきたのかを整理していくことがあります。
そのうえで考えていくのは、「相手をどう変えるか」だけではありません。
私はこれから、この人とどんな関係でいたいのか。
今までと同じ役割を続けたいのか。
変えたいものは何なのか。
自分が大切にしたいことを、どこまで相手と共有したいのか。
同じ「家族のため」という言葉を使っていても、その中身は人それぞれです。
だからこそ、二人にとっての「家族を大切にする」を、今の二人でもう一度作り直していくことが必要なのだと思います。




