親からの電話に構えてしまうのはなぜ?仕事と実家の板挟みになる心理

実家の窓口係になる 仕事・対人関係

会議の前にスマホを見ると、親からの不在着信が3件。

「何かあったのでは」

と慌てて電話をすると、用件はテレビの音量が変わったという話だった。

緊急事態ではなかったとわかり、ほっとする。ところが同時に、

「仕事中なのに、なぜ今なの」
「また私が調べるの?」
「でも放っておいて、本当に困っていたらどうしよう」

という気持ちも出てきます。

親を心配していないわけではない。できることなら助けたい。頭では「全部私がやらなくてもいい」とわかっている。それでも着信を見るだけで身構え、仕事への集中が切れ、結局また自分が動いてしまう。

親からの頼みごとを負担に感じているのに、なぜ引き受けることをやめられないのでしょうか。

この記事では、電話への対応方法だけでなく、その奥にある「私がやるしかない」という感覚について考えていきます。

親からの電話は「用件」だけを運んでくるわけではない

親からの着信を見たとき、まだ電話に出ていないのに疲れることがあります。

それは、これまでの経験から、その先に起きることまで想像しているからです。

電話に出る。

親の話を聞く。

何が起きているのかを整理する。

必要な情報を調べる。

親に説明する。

場合によっては、病院や店へ連絡する。

そして、次に同じことが起きないよう対策まで考える。

用件そのものは数分で終わる内容でも、自分の中では「また新しい仕事が始まる」と感じています。

たとえば、

「病院で先生に聞きたいことがあったけれど、忘れてしまった」

と言われたとします。

「じゃあ、次までにメモしておいてね」

で終えることもできます。

ところが反射的に、

「じゃあ、私が聞くことを整理しておくね」

と答えてしまう。

気づけば、“思い出す係”まで自分に配属されています。

電話一本が負担なのではなく、その電話を入口にして、次の作業、その次の判断まで自分の担当になることを知っている。

だから着信を見ただけで、「今度は何だろう」と身構えるのです。

40〜50代は、仕事と親の用事が同時にやってくる

40〜50代になると、仕事では責任のある役割を任される人も増えます。

自分の業務だけでなく、部下や同僚の確認、急な判断、取引先への対応などもある。

家庭では家事や子どものことがあり、そこへ親の通院、手続き、買い物、家電の操作、生活上の相談が入ってきます。

仕事中に親から電話が来れば、いったん業務を止めて実家のことを考える。

電話を切れば、また仕事へ戻る。

帰宅してからも、

「次の病院はいつだった?」
「あの手続きはどうなった?」
「最近、同じことを何度も聞くけれど平気だろうか」

と気になる。

実際に動いている時間だけでなく、考えている時間まで親の用事に使われています。

周囲から見ると「親から電話が来ただけ」に見えるため、本人も自分がどれだけ実家のことを抱えているのか気づきにくいことがあります。

なぜ実家の用事が、自分に集まるのか

誰が親の用事を担当するのか、家族会議で正式に決めたわけでもない。

それなのに、気づけば一人へ連絡も判断も集まっていることがあります。

・親から最初に電話をかけられる
・家族の中で返事が早い
・調べたり説明したりするのが得意
・以前から親の相談相手だった
・ほかの人へ頼むより、自分で動くほうが早い
・頼まれると引き受けてしまう

一人っ子であったり、現実的にほかに動ける人がいなかったりする場合もあります。

一方で、本人が実際に「できる人」だったため、自然に頼られるようになったケースもあります。

物事を理解するのが早い。

手続きが得意。

予定を組むのがうまい。

家族の変化によく気づく。

困ったときに何をすればよいか考えられる。

ほかのきょうだいより、親にとって頼りになる。

そんな人なら、

「あなたはしっかりしているから」
「あなたなら任せられる」
「本当に頼りになる」

と言われることも多かったでしょう。

実際、褒め言葉だったのだと思います。

そして、頼られたことに応えるたびに認めてもらえた経験が重なると、

「できる自分」
「役に立つ自分」

が、自分の価値と結びつくことがあります。

すると、断ることや、わからないと言うこと、人へ任せることは、単なる役割分担では済まなくなります。

「私がやらなかったら、私は何の役に立つのだろう」

そんな感覚まで動くことがあるからです。

実家の用事を引き受け続ける背景には、いくつもの理由があります。

・実際に自分が最も対応できる
・頼りになる人として認められてきた
・家族が困れば自分が動くことが当たり前になっている

「私がやる」は、考える前に始まっていることがある

家族の中で「私がやる」ことを長く続けてきた人もいます。

親の相談を聞く。

親の機嫌を見る。

きょうだいの面倒を見る。

家のことを手伝う。

家族に問題が起きたら、自分が動く。

長年それをしていると、「頼まれたから仕方なくやる」という感覚すらなくなっていきます。

困っている人がいる。

自分が気づく。

自分が動く。

ここまでが、ほとんど一続きになっています。

だから周囲から、

「嫌なら断ればいいじゃない」

と言われても、本人にはそれほど簡単ではありません。

断るかどうかを考える前に、すでに解決方法を考え始めているからです。

しかも自分が動けば、実際に早く片づきます。

親も落ち着く。

自分も「これでひとまず終わった」と落ち着く。

この繰り返しによって、

「私が動けば問題は収まる」

という関わり方がますます定着していきます。

なぜ断っても平気な人と、罪悪感が強い人がいるのか

親から、

「これをやってほしい」

と言われても、

「今日は無理」
「それは自分でやって」
「ほかの人に頼んでみて」

と言い、その後ほとんど気にしない人もいます。

一方で、一度断っただけで何日も気になる人もいます。

親が困っていないだろうか。

あの言い方は冷たかったのではないか。

自分がやれば済んだのに。

もし後から何かあったら後悔するのではないか。

この違いを「親思いかどうか」だけでは説明できません。

罪悪感が強くなる背景には、

・親を困らせると、自分が悪い人のように感じる
・役に立つことで認められてきた
・家族の問題は自分が解決するものだった
・親を悲しませたり、不機嫌にさせたりすることを避けてきた
・自分だけ楽をすると申し訳なく感じる
・親に何か起きた後で「もっとしておけば」と後悔するのが怖い
・親から必要とされなくなることに寂しさがある

など、さまざまな理由があります。

同じ「断れない」でも、その人の中で起きていることは違います。

腹が立つのに、また引き受けてしまう

負担が増えると、親への怒りも出てきます。

「また私?」
「自分でできることまで頼まないで」
「私にも仕事があるんだけど」

もうやりたくない。

少し距離を取りたい。

そう思う。

ところが、距離を取ろうとすると、

「こんな年齢の親を放っておくの?」
「もし何かあったら?」
「親が元気なうちくらい、してあげればいいのでは?」

と罪悪感が出てきます。

すると、また引き受ける。

親から頼まれる

自分が引き受ける

腹が立つ

もうやりたくないと思う

距離を取ろうとすると罪悪感が出る

また引き受ける

この循環が続くと、怒りも罪悪感も強くなっていきます。

親を心配する気持ちと、「もう勘弁してほしい」という気持ちが同時にあっても不思議ではありません。

どちらか一方だけが本心というわけでもありません。

親を助けることと、親の代わりになることを分ける

親が年齢を重ねれば、以前できていたことが難しくなる場合があります。

実際に援助が必要なこともあります。

だから、「全部親にやらせればいい」という話にはなりません。

考えたいのは、どこまでを誰が担当するのかです。

たとえば通院でも、

・親が聞きたいことをメモし、娘が確認する
・病院までの移動だけを手伝う
・診察には付き添うが、質問は親からしてもらう
・説明を一緒に聞き、帰宅後に内容を確認する
・準備、質問、判断、次回の予定まですべて娘が担当する

では、負担がかなり違います。

親の状態によって必要な援助は変わります。

その都度、

「今、親が本当にできないことは何か」
「時間がかかっても本人に任せられることは何か」
「私が担当する必要があるのはどこまでか」

を確認していきます。

さらに分けたいものがあります。

親の不安。

親の機嫌。

親の孤独。

親の人間関係。

親が今の生活に満足しているかどうか。

そこまで娘がすべて解決することはできません。

親を支えることと、「親が不安にならないように、自分が何とかし続ける」ことは分けて考える必要があります。

親が不満を言わない範囲まで、やる必要はない

役割を減らそうとすると、親から、

「前はやってくれたのに」
「それくらいやってくれてもいいでしょう」
「頼れるのはあなただけなのに」

と言われることもあるかもしれません。

ここで「親が納得するところまで」を基準にすると、結局また元の状態へ戻りやすくなります。

親は、もっとしてほしいと思うかもしれない。

こちらは、そこまではできないと思うかもしれない。

その違いがあっても、

「ここまではできる」
「これは今日はできない」
「これは別の人へお願いする」

と決める必要があります。

親の不満までなくしてから役割を変えようとすると、いつまでも変えられないことがあります。

仕事中の電話は、緊急度を分けて考える

親から電話が来るたびに、すべてを同じ緊急度で扱う必要はありません。

電話に出る前や、かけ直した後に分けてみます。

・今すぐ対応しなければ危険がある内容か
・今日中なら間に合う内容か
・次に会ったときでもよい内容か
・電話で説明すれば親自身ができることか
・ほかの家族でも対応できることか
・自分が仕事を止めて対応する必要があることか

仕事中なら、

「今は仕事中だから、急ぎなら用件をメッセージに入れて。急ぎでなければ夜に電話するね」

と決める方法もあります。

親がメッセージを使わないなら、

「緊急なら続けて二回かける」
「急ぎでなければ留守番電話に入れる」

など、その家族でわかりやすい方法を作ってもよいでしょう。

親がすぐに慣れるとは限りません。

それでも、毎回こちらが仕事を中断して確認する形を続けるより、「どの電話ならすぐ対応するか」を決めておくほうが、負担を整理しやすくなります。

きょうだいや外部へ分けても、自分が気になってしまうことがある

きょうだいがいるなら、通院、買い物、手続き、電話、緊急時の対応などを分けられる場合があります。

ただし、

「きょうだいが何もしない」

という話だけで終わらないケースもあります。

妹に任せても心配。

弟とは考え方が違う。

結局、自分が確認することになる。

説明するくらいなら、自分でやったほうが早い。

そんな気持ちがある場合です。

もちろん、きょうだいにも仕事、居住地、家庭事情、親との関係などがあります。

誰か一人を責めても分担がうまくいくとは限りません。

また、自分と違う方法で親を支えることを、どこまで任せられるかという問題もあります。

家族だけでは難しい場合には、必要に応じて外部へ相談する方法もあります。

全部を同じ量に分けることより、自分以外の人や仕組みへ渡せるものがないかを見ることが重要です。

親への援助は、次のように分けて考えられます。

・親自身に任せること
・自分が納得して担当したいこと
・きょうだいや家族へ分けられること
・外部へ相談できること
・今は引き受けられないこと

「全部やる」から突然「もう関わらない」になる前に

頭では、

「全部やらなくてもいい」
「分担したほうがいい」

と理解していても、実際には役割を減らせない人がいます。

我慢しながら対応を続けていると、ある日、親から電話が来ただけで激しい怒りが出ることがあります。

もう話を聞きたくない。

電話に出たくない。

しばらく顔も見たくない。

場合によっては、「もう一切関わりたくない」というところまで追い込まれることもあります。

限界になってから、全部をやめる。

しばらくすると罪悪感が出て、また全部を引き受ける。

この繰り返しになる前に、

「私はなぜ、ここまでやらずにいられないのだろう」

を見ておく必要があります。

そして、

「何もかもするか、何もしないか」

の間にある選択肢を増やしていきます。

まとめ|親を心配することと、全部を背負うことを分ける

親からの電話に身構えてしまうとき、負担になっているのは電話一本だけではありません。

親の話を聞き、状況を整理し、調べ、判断し、動き、その先まで考える。

その一連の役割が、また自分へ回ってくることへの負担があります。

親を心配すること。

必要な援助をすること。

親に関することを全部自分が担当すること。

この三つは分けて考えられます。

自分が納得して「これはやりたい」と思う援助までやめる必要はありません。

一方で、親が不満を言わなくなるまで自分が対応する必要もありません。

どこまでならできるのか。

何は親本人に任せるのか。

何を家族や外部へ分けるのか。

そして、自分の仕事や生活にどの程度影響が出ているのか。

そこから現在の援助の形を見直していきます。

それでも、頭ではわかっているのに役割を減らせないことがあります。

そんなときには、現在の分担方法だけを考えても変わりにくい場合があります。

カウンセリングでは、家族の中でいつから相談役や調整役になったのか、しっかりしていることで何を認めてもらってきたのか、親の期待に応えなかったら何が起きると感じるのか、なぜこれほど罪悪感が出るのかを、その人の経験に合わせて整理していきます。

親が年齢を重ね、以前できたことができなくなっていく姿への寂しさや戸惑いが重なっていることもあります。助けたい気持ちがあるからこそ、役割を減らすことが難しくなっている場合もあります。

「全部引き受けるか、親を見捨てるか」の二つだけで考えなくてもよいのです。

どこまでなら納得して手伝えるのか。どこから先は別の人へ渡すのか。

親との関係を続けながら、自分が引き受ける範囲を決めていくために、カウンセリングを使うこともできます。

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