彼から、
「今日は一人でゆっくりしたい」
と言われる。
言葉だけを見れば、今日は一人で過ごしたいという話です。
けれども、頭の中では、
「私とは会いたくないということ?」
「一緒にいても楽しくないのかな」
「気持ちが冷めてきたのかもしれない」
と話が広がっていく。
友人からのメッセージが、
「また落ち着いたら連絡するね」
で終わると、
「もう私とは会いたくないのかもしれない」
と思う。
職場で、
「あとで少し話せますか」
と言われると、まだ何も聞いていないのに、
「何か失敗したのだろうか」
「注意されるのかもしれない」
と落ち着かなくなる。
相手が言ったのは、ほんの一言です。
それなのに、その一言から悪い出来事をいくつも想像し、実際に起きたことのように苦しくなってしまうことがあります。
相手の言葉と、自分が受け取った意味は同じとは限らない
人は、相手の言葉をそのまま受け取っているとは限りません。
相手が言った言葉に、自分なりの意味をつけて受け取っています。
彼が、
「今日は疲れたから、早く帰るね」
と言った時、事実としてわかるのは、彼が疲れていて早く帰るということです。
けれども、自分の中で、
「私と一緒にいたくないのだ」
という意味が加わることがあります。
友人からの返信が短かった時も、
「今日は忙しいのかもしれない」
と受け取る人もいれば、
「私とのやりとりが面倒なのだろう」
と受け取る人もいます。
同じ言葉でも、受け取る意味は人によって違います。
そして、苦しさを大きくしているのは、相手が実際に言ったことよりも、自分の中で加えられた意味であることがあります。
「私は嫌われるかもしれない」が先にある
何気ない言葉を悪い意味に受け取りやすい人は、もともと心のどこかに、
「私は嫌われるかもしれない」
「私は相手にとって迷惑かもしれない」
「私より、ほかの人のほうが大切なのだろう」
という思いを持っていることがあります。
そのため、相手の言葉を聞いた時に、その思いに合う意味をつけやすくなります。
彼が一人で過ごしたいと言えば、
「やはり私とは一緒にいたくないのだ」
と思う。
友人からすぐに返信が来なければ、
「やはり私とのやりとりは面倒なのだ」
と思う。
相手の表情が少し曇っていれば、
「私が何か悪いことをしたのだ」
と思う。
相手の言葉から新しく不安が生まれたというより、もともと持っていた不安を、その言葉で思い出したような状態です。
過去に経験したことが、今の言葉の意味に入り込む
悪い意味に受け取るようになったのにも、理由があることがあります。
子どもの頃、家族の機嫌をいつも気にしていたのかもしれません。
親の表情が変わったら、自分が何かをして怒らせたのではないかと考えていた。
何かをお願いすると、面倒そうな顔をされた。
話しかけた時に、
「今は忙しいから」
と何度も拒まれた。
人に気持ちを伝えても、取り合ってもらえなかった。
そのような経験が重なると、相手の表情や声の調子から、拒絶の気配を早く見つけようとすることがあります。
以前の恋人から、突然別れを告げられた経験がある人なら、連絡が少し減っただけでも、
「また同じことが起きるのではないか」
と不安になるかもしれません。
過去の相手と今の相手は別の人です。
けれども、今の言葉を聞いた時に、以前に経験した痛みまで思い出してしまうことがあります。
悪い意味に受け取ると、望んでいたことと反対の行動をしてしまう
本当は彼と楽しく過ごしたい。
本当は友人とまた会いたい。
本当は家族に自分から連絡したい。
そう思っているのに、嫌われることを考え始めると、望んでいたこととは反対の行動を取ることがあります。
彼からの返信が短いと、
「私もそっけなくしておこう」
と返事を減らす。
友人から誘われなくなるのが怖くて、自分からも誘わない。
家族に喜んでもらえないのが怖くて、連絡そのものをしない。
傷つけられる前に、自分から少し離れるのです。
相手から見ると、こちらが距離を置いたように見えます。
すると本当に連絡が減ったり、関係が遠くなったりすることがあります。
そして、
「やはり私は大切にされていなかった」
と感じます。
けれども、最初から相手が離れようとしていたとは限りません。
嫌われると思って取った行動によって、望んでいなかった距離ができた可能性もあります。
無理に良い意味へ変えなくていい
悪い意味に受け取っていると気づくと、
「では、良い意味に考えなければ」
と思う人もいます。
彼が冷たい態度を取っていても、
「きっと私を大切に思っているからだ」
と考えようとする。
誰かに怒られても、
「私に期待してくれているのだ」
と受け取ろうとする。
けれども、無理に良い意味へ変える必要はありません。
相手が何を考えているかは、相手にしかわからない部分があります。
良い意味に決めつけることも、悪い意味に決めつけることも、まだ確認できていない点では同じです。
必要なのは、すぐに良い結論を出すことではなく、
「私は今、この言葉をこう受け取った」
と気づくことです。
「一人で過ごしたいと言われて、嫌われたように感じた」
「返信が短くて、迷惑がられたように思った」
「あとで話すと言われて、怒られると思った」
まずは、自分がつけた意味を確認します。
事実と、自分が考えたことを分けてみる
不安になった時は、次のように分けて考えてみます。
彼が言ったことは、
「今日は一人でゆっくりしたい」
です。
自分が考えたことは、
「私とは会いたくないのだ」
です。
友人から来た言葉は、
「また落ち着いたら連絡するね」
です。
自分が考えたことは、
「もう私と会いたくないのだ」
です。
二つを分けてみると、自分が考えたことが事実として確認されたわけではないとわかります。
そのうえで、
「ほかには、どのような可能性があるだろう」
と考えてみます。
本当に疲れているのかもしれない。
仕事が忙しいのかもしれない。
一人で考えたいことがあるのかもしれない。
こちらへの気持ちとは関係のない事情があるのかもしれない。
もちろん、自分が心配している通りの場合もあります。
ただ、一つの意味だけに決める前に、ほかの可能性も残しておくことはできます。
わからないことは、相手に確かめてもいい
相手の言葉の意味がどうしても気になる時は、頭の中だけで答えを出そうとせず、本人に確かめる方法もあります。
「今日は一人で過ごしたいと言われて、少し寂しくなった。私とのことではなく、本当に疲れているということかな」
「さっきの言葉を、私は責められたように受け取ったのだけれど、どういう意味だった?」
「最近連絡が少ないけれど、忙しいのか、少し距離を取りたいのか知りたい」
責めるのではなく、自分がどう受け取ったのかを伝え、相手の考えを聞いてみます。
そこで話し合える相手なのかどうかも、関係を考えるうえでは大切です。
相手が説明してくれることもあります。
こちらの受け取り方と、相手の意図が違っていたとわかることもあります。
反対に、話をそらされたり、何度聞いても曖昧にされたりすることもあるでしょう。
確かめることで、頭の中の想像だけではわからなかったものが見えてきます。
実際に傷つけられている場合まで、受け取り方の問題にしない
すべてを、
「私が悪く受け取っているだけかもしれない」
と考える必要はありません。
相手が繰り返し見下すようなことを言う。
嫌だと伝えたことを何度も続ける。
こちらが傷ついていると話しても、笑って済ませる。
連絡を断ったり近づいたりして、こちらを振り回す。
このようなことが続いているなら、単なる解釈の問題ではない場合があります。
傷つく言動を受けた時まで、
「私の受け取り方を変えればいい」
と考えてしまうと、相手の問題まで自分が引き受けることになります。
自分が悪い意味に受け取っているのか。
それとも、実際に尊重されていないのか。
両方の可能性を見ながら判断する必要があります。
なぜその意味に受け取ったのかを整理する
相手の何気ない一言を悪い意味に受け取ってしまう時、単に考え方を変えようとしても、何度も同じ不安が出てくることがあります。
そこには、
これまで誰の機嫌を気にしてきたのか。
何を言うと拒まれると思うようになったのか。
相手が離れていくことを、なぜこれほど怖いと感じるのか。
自分は人からどのように扱われる存在だと思っているのか。
といった、その人なりの理由があるからです。
カウンセリングでは、相手の言葉を無理に良く解釈するのではなく、自分がなぜその意味に受け取ったのかを一緒に整理していきます。
今の相手との間で実際に起きていることと、以前の経験から想像していることを分けながら、確認できることは確認し、まだわからないことを一つの結論に決めつけないようにしていきます。




